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第312話

あっという間に月日も過ぎ、今日から出張だ。 俺は涼真と一泊二日、城崎は部長と三泊四日。 同棲してから夜を共にしないのは初めてで、城崎は時間ギリギリまで粘っていた。 「先輩、もう一個だけ…!」 「や、やだよ、もう。」 「お願い。」 「仕方ないな……。」 城崎は俺の背中にジュッと吸い付いた。 これで15個目。 城崎は朝から見えないところにいくつもキスマークを付けている。 本人曰く、涼真への牽制(けんせい)と、あとは丸三日俺に触れられない欲求解消らしい。 「はぁ〜。行きたくない。今から仮病使って休んじゃだめですか?」 「駄目。頑張るって言ったろ?」 「だって先輩がいないなんて…。無理…、はぁ……。」 「ため息つきすぎ。今日の夜電話するから。」 いつも以上に抱きしめる力が強い。 本当に時間やばくなってきたな…。 「城崎、そろそろ…。」 「いってきますのチューは?」 「するよ。どっちがいい?」 「もちろん、深いので。」 軽いキスか濃厚なキスか、確認してから舌を入れる。 城崎ばかり寂しいわけじゃない。 俺だって城崎と離れるのは寂しいに決まっている。 夢中になりすぎて口角から唾液が垂れそうになって、思わず唇を離す。 間髪を入れず城崎はまた唇を重ね、俺の舌を吸った。 今から仕事なのに、今から離れるのにこんな感じるキスされたら堪らない。 「だ……め…っ…!」 「えっ?」 「勃っちゃうから…。もうダメ。」 「……………。」 城崎は俺の反応しかけの下腹部を見て、納得したように体を離した。 心臓が大きく鼓動を打って治らない。 「バカ……。」 「ごめんなさい…。歩ける…?」 「なんとか。」 二人で家を出て、駅まで歩く。 まだ朝も早く、そんなに人がいないからこっそりと手を繋ぐ。 電車に乗って東京駅。 ここで城崎とはお別れだ。 「じゃあ、頑張ってな。」 「はい。先輩も。」 「大阪土産、楽しみにしてるから。」 「はい…。」 ぎこちない会話になってしまって、お互い離れたくないのが伝わってくる。 今生(こんじょう)の別れなわけじゃないのに。 城崎が部長との待ち合わせ場所に行こうと背を向けて、俺は思わず城崎の腕を掴んだ。 「先輩……?」 「待ってるから…。早く帰ってこいよ……。」 「っっ…!はいっ!!」 人がたくさんいるから抱きしめたりはできないけど、城崎は今にも飛びかかってきそうな大型犬みたいに尻尾振りまくって俺に返事した。

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