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第329話

城崎が黙ってしまって、俺は慌てて言葉を取り繕う。 「…………」 「ご、ごめん…。無理って分かってるし、その…、ただの俺の我儘(わがまま)っていうか…!あの…、だからっ、引かないで……」 「はぁ〜〜〜…………」 今日一大きなため息をついた城崎に、何を言われるのだろうかとビクついた。 「なんでさぁ…、そばに居ない時にそんな可愛いこと言うかなぁ……?」 「え…」 「独占欲でしょ?もう嬉しすぎるし、そんなの。」 「引かない……?」 「俺がバカみたいに先輩のこと独り占めしたいって思ってるの知ってるでしょ?先輩の親友にまで嫉妬して。なんなら先輩と喋るの俺だけでいいとさえ思ってるし。」 「お、俺も…!城崎が俺としか喋んなきゃいいのにって、さっきちょっと思っちゃって…。」 城崎は口を押さえながら、恥ずかしそうに俺を見る。 そういえばそうだった。 それが城崎の普通だったから、なんか当たり前に思ってて、俺はあまりそういうこと言ったことなかったから、引かれるかもとか思っちゃったのかな、俺。 城崎も嬉しいんだ、俺が独り占めしたいって思ったら。 「言っておきますけど、俺は常に思ってますからね?先輩が他の人と話してると内容気になっちゃうし、すぐ嫉妬しちゃいそうになるし。」 「そうなの…?」 「余裕ないの、俺は。先輩居なくなったら生きられないから。」 「ははっ!城崎、重っ!」 「そうですよ、俺は超重いですよ。だから先輩、覚悟しててくださいね?」 よかった。 俺のこんな(よこしま)な気持ちさえ、城崎は笑って受け入れてくれる。 それどころか、俺が凹まないように自分まで巻き込んで。 「好きだよ、城崎。」 「やっぱり何回言われても嬉しいですね。俺も大好きだよ、綾人さん。」 「き、急に名前で呼ぶな…、バカ…。」 「照れてる〜。かわい〜〜。」 城崎を好きになってよかった。 この気持ちは多分、今までもこれからもずっと変わらなくて。 もしも別れることになったとしても、多分城崎を好きになったことを後悔する時は来ないと思う。 「夏月。」 「…っ!!」 「ぶっ(笑)おまえも照れてんじゃん。」 「そ、そりゃ!!急だし?!貴重だし!!」 名前を呼ぶのも、呼ばれるのも、こんなにも幸せで。 あぁ、早くそばで幸せを分かち合えたらいいのに。 距離が遠いって、こんなにも寂しいんだ。 「電話切りたくないですけど、繋いでたらどんどん会いたくなってきちゃいますね。」 「ほんとにな。」 「未来の道具もらえるなら、どこでもドアが一番欲しいなぁ。そしたらいつでも先輩に会えるのに。」 「じゃあ俺はタイムマシンで、もっと早く城崎に会いに行く。そしたらもっと長く一緒に居られるだろ?……あ、でも過去の城崎が俺を選んでくれる保証はないか。」 「もし俺が学生だとしても絶対先輩のこと好きになってますから!!安心して過去へ来てください!!」 「ぶはっ…!なんでそんな自信満々なんだよ(笑)」 他愛もない話をしながら、電話を繋いだままいつのまにか眠っていた。 朝起きた時には城崎からメールがきていて、俺は恋しくなりながらも仕事に集中することで一日をやり過ごした。

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