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第334話

出張が終わって3週間後の金曜日。 ゆっくりと仕事を終えて、18時にデスクを立った。 「あれ?今日は一人?」 涼真が不思議そうに首を傾げる。 いつもなら城崎と一緒に帰るのだが、今日は一人だ。 城崎が仕事が終わるや否やすぐに帰ってしまったから。 いや、理由は聞いてる。 友達との予定だって…。 「うん。なんか友達と予定だって。」 「へぇ〜、珍しい。飲み行く?」 「いや、いいよ。城崎が嫉妬するし。」 「あいつは友達と会ってるなら、別に綾人が縛られる理由はないだろ。」 「うん、まぁな…。でも早く城崎に会いたいから、飲むのはやめとく。」 「そっか。残念。」 涼真の誘いを断り、駅へ向かう。 真っ直ぐ家に帰ろうと電車に乗ってから、トイレットペーパーを切らしていたことに気づく。 最寄駅でもいいけど、どうせ城崎はまだ帰ってないだろうからちょっとだけ寄り道しよう。 なんて思ったのが悪かったのかもしれない。 「えっ………」 ドラッグストアでもスーパーでもどこでもよかった。 そんなに長居するつもりもなかった。 30歳だし、若者の行くようなショップにも興味はないし。 だからこんな所で降りなきゃよかった。 知らなきゃよかったのに。 「夏月くんは何がいいと思う?」 「うーん…。お揃いで付けられるアクセとか?」 「あ!それいい〜!」 駅前で人がたくさんいるのに。 なぜ俺は見つけてしまったんだろう? ザワザワと五月蝿(うるさ)い人混みの中で鮮明に聞こえる城崎の声。 お願いだから。 俺以外に笑いかけないでくれ。 隣に立つ、俺より小さいくらいの小柄で華奢な子に笑いかける城崎を見て嫉妬する自分が醜い。 城崎は何度も俺だけだと伝えてくれているのに、いざこんな現場を目にしてしまうと不安で仕方ない。 話しかけてもいいものなのか? そうだ。城崎は浮気なんて絶対しない。 あの人は友達のはず……。 「城さ……」 城崎を呼びかけようとした瞬間見えた隣に立つ人物に、俺は言葉を詰まらせた。 城崎の隣に立つのは、一ヶ月ほど前に電車で出会った天使くんだった。 「先輩……?」 「………っ!」 「あれ?あにまるずのお兄さん!」 なんで…? どうして天使くんが城崎と…? 「え?先輩っ!!」 俺は思わず城崎と天使くんに背を向けて走り去った。

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