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第335話

天使くんってゲイじゃなかったっけ? 彼氏がいるって言ってなかったっけ? もしかして城崎? だって、さっきの天使くんめちゃくちゃ可愛い笑顔だったし。 それに、城崎とすげぇお似合いだったし…。 「俺に勝てる要素ないじゃん……。」 考えれば考えるほど、気分がどんどん落ち込んでいく。 城崎が浮気だなんて疑いたくないけど、あんなの…。 お揃いのアクセサリーがいいとか言ってたよな……。 二人の記念日かなんかなのかな…。 ってことは、きっと俺よりもっと前から付き合ってるんだろうな……。 俺、出て行った方がいいのかな………? 「……グスッ」 あー、もう。 何で泣くんだよ、俺……。 たくさん人がいるのに大の男が泣いてたら……。 いや、たくさんいるから気づかれないのかも。 涙で視界が悪い。 都心だから街灯やネオンがぼやけて光る。 このまま知らない所で飲んで、知らない人に抱かれてみたらどうなるかな……。 浴びるほど酒飲んだら、城崎に抱かれてるみたいに錯覚できたりして…。 そんでそのまま、全部忘れられればいいのに。 「…………好きだったのになぁ…。」 バカみたいに涙が溢れてきて、拭っても拭ってもキリがない。 悲しい。 同棲始めて浮かれてたのかもしれない。 もう歩く気力すらなくなって、その場で座り込もうとするとグイッと腕を引かれ、そのまま抱きしめられた。 「先輩っ!!」 「…………城…崎……?」 「好きだったって何?今は好きじゃないってことですか?」 「…………っ」 「何泣いてるんですか?俺、何かした?」 「……………グスッ」 「もー……。泣いてたら分かんないじゃないですか…。何か不安にさせるようなことしちゃいましたか?嫉妬だけでこんなにグチャグチャになるほど泣かないですよね?」 俺を抱きしめる城崎の腕は温かい。 俺を心配する城崎の声は優しい。 俺の涙を掬う指も、困ったような表情も、全部俺の大好きな城崎そのままだ。 「さっきの人……」 「うん?」 「恋人……?」 「は?」 震える声を抑えながら必死に言葉にしたのに、城崎は怪訝(けげん)な顔で俺を見た。 そして俺の言葉と今の俺の状況で何か納得したようにため息をつく。 「はぁ……。俺、先輩だけって言ってますよね?」 「………うん。」 「信じてないの?」 「違う!信じてないんじゃなくて…。自信…なくて…。」 「俺、先輩が好きで好きで堪らなくて、もう何度も伝えてるつもりなんですけど…。いい加減自覚してほしいです。」 「………ごめん。」 「勘違いしてるようなのできちんと伝えておきますけど、あの人は透さんの恋人。もうすぐ透さんの誕生日だから、そのプレゼント選びに付き合ってただけです。」 城崎は俺の目を真っ直ぐ見てそう言った。

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