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第339話
「これにする!」
探し始めて1時間。
悩み抜いた末に圭くんが選んだのは、手触りのいいワインレッドのマフラーだった。
随分色で迷っていたようだが、倉科さんが黒いコートや服を着ることが多いため、差し色にできる赤がいいんじゃないかと城崎がアドバイスしたらしい。
「アクセサリーじゃなくてよかったの?」
「えっとね、最初に見た指輪も買う〜。」
「えっ…?」
現実的なプレゼントに落ち着いたのかと思ったら、まさかの追加プレゼントだったらしい。
俺も時計買った時、割と奮発したつもりだったんだけど…。
チラッと隣を見上げると、城崎も少し顔が引き攣 っていた。
「透さん目利きいいし、そんなに買ったのかって怒られますよ…?」
「うーん…。でも夏月くんも指輪もらったら嬉しいでしょ?」
「まぁ…、そりゃ……。」
「じゃあ決定〜。いい買い物した♪二人とも付き合ってくれてありがとう〜!」
圭くんは天使のような笑顔でお礼をした。
子どもみたいに可愛いのに、両手に持つプレゼントはあまりにも可愛くない。値段的な問題で。
本人がいいなら構わないのだけど。
「じゃあ俺たちも帰りますか。」
「うん。」
「せっかくだし、何か食べて帰りますか?」
「うん……。」
「??」
圭くんを改札まで見送った後、俺と城崎も自宅の最寄駅がある路線の改札へ歩く。
夕飯か……。
もし食べて帰らなかったら、今から城崎が作って、そしたら後がどんどん押して……。
正直早くイチャつきたいっていうか、なんていうか…。
でも外食だと時間かかりそうだよなぁ…。
俺のはっきりとしない返事に、城崎は不思議そうに首を傾げている。
この際はっきり言ってしまうか。
「………その、早く帰りたいから…、ラーメンとかにしない?」
「…!先輩、それはズルい…です……」
城崎は意味をわかってくれたようで、お互い顔を真っ赤にして少し目を逸らした。
調べもせずに適当なラーメン屋に入って、そしたらすっげぇ不味くて、でもそれも家に帰るまでの笑い話になった。
電車の席が空いて、隣同士で座って、仕事終わりだから疲れも溜まっていて、城崎にもたれかかって少しだけ眠る。
最寄駅に着いて城崎に起こされて、目を開けたら今にもキスしそうな距離に城崎の顔があって、俺は逃げるように電車から降りた。
「逃げないでよ。」
「ばっ…、だ、だって!電車!!」
「別に誰も見てなかったじゃん。」
「そういう問題じゃねぇだろ!」
「ま、先輩目ぇ覚めたみたいだし、よかった。」
改札を降りて街灯だけが頼りの暗い道を二人で歩く。
城崎は買い物中からずっとそういう気分になっているようだし、予告された俺もそういう気分になってる。
繋ぐ手は緊張なのか興奮なのか、しっとりと汗ばんでいて、家へと歩む足は心なしかいつもより速かった。
キーケースを鞄から取り出し、鍵を回して扉を開けると、俺たちは二人の世界へ入った。
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