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第349話
「おはようございます。」
「おはよー。」
始業時間前、ぞろぞろとみんなが出勤して席に着いていく。
始業開始時間になり、朝礼が始まる。
社訓の読み上げを終え、部長が咳払いをした。
「今月中旬に行く社員旅行の部屋割りが決まったので、掲示しておきます。」
ザワッと部署内が騒つく。
これが結構重要で、当たり前だが仲良い人と相部屋だと段違いに楽しみになったりするのだ。
毎年大抵4人の相部屋だ。
去年は俺と涼真、あと2人一個上の先輩二人と相部屋で、夜は飲み明かしてとても盛り上がった記憶がある。
今年は城崎と一緒だといいなぁ、なんて思いながら部屋割り表を確認して、固まった。
「え、何これ……。」
Cチーム:望月、柳津、雀田
Dチーム:……、……、……、城崎
涼真と一緒なのはいいが、城崎と離れた上に俺たちの部屋だけ三人部屋だ。
振り返ると、絶望した顔の城崎が突っ立っていた。
「部長……、これは何を基準に………」
「中堅組は仲良い奴ら何人か固めた方が嬉しいだろ?新人は仲良くしてる上司の部屋に……、って、城崎??」
「部長、俺が望月さんのこと慕ってるって知ってますよね……?」
「いやぁ、お前に関しては過剰だろ?他の上司とも仲良くやったほうがいいと思ってなぁ…?」
「余計なお世話です……。部長、もちろん部屋変えは可能ですよね?!」
「え…?ま、まぁお互いがいいなら勝手にすればいいが…。」
「わかりました。さぁ、ちゅんちゅん。俺と話し合おう。いい返事がもらえるといいなぁ?」
「え?!わ、うわぁっ!?」
城崎は部長から部屋変えの許可をもらうや否や、作り笑顔でちゅんちゅんを連行して消えていった。
もう始業時間なんだけど…。
「もう始業時間なんだけどなぁ…。」
俺の心の声を、部長が隣で呟いた。
多分みんな同じこと思っているけど、この部屋割りは正直部長が悪い。
正確には城崎の執着心を知らない部長が決めたから仕方ないけど、変に気を遣って俺と城崎を離してしまったのが悪かった。
「望月、ちょっとあいつらの様子見てきてくれるか?」
「はい…。」
ちゅんちゅんが連行されて三十分。
さすがに部長も呆れた様子で、俺が二人の回収係に任命された。
城崎はこの三十分のロスをすぐに巻き返せると思うが、ちゅんちゅんは仕事早いわけじゃないからなぁ…。
何処にいるのかわからないまま適当に歩いていると、会議室の方からキャンキャンと抵抗する見知った声が聞こえてきた。
「おまえら…、いつまで言い合ってんの…?」
「先輩っ!」「望月さんっ!」
ドアを開けると、二人ほぼ同時に振り返った。
城崎は少しキレ気味、ちゅんちゅんは泣きそうな顔をしている。
「もちろん先輩は俺と一緒の部屋がいいですよね?!」
「ダメです!望月さんの操 は俺が守ります!!」
「何回も言ってるけど、先輩は既に俺のものだから!!」
「望月さんには彼女がいるんです!城崎さんの妄想で望月さんを汚さないでください〜!!」
地獄……。
俺は何も見ていないことにしようと、静かにドアを閉じた。
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