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第350話

「「帰っちゃダメ!!」」 閉じたドアが勢いよく開けられ、腕を引かれてまた中に連れ戻される。 「なんなの、お前ら…。」 「だ、だって!前も言いましたけど、城崎さんは絶対絶対ぜーーーったいに望月さんに気がありますよ!?望月さん!一緒の部屋はダメです!!危ないです!!」 苦笑しながら問いかけると、ちゅんちゅんが涙ながらに俺に訴えかける。 危ないつってもなぁ…。 俺と城崎はもう何回も致してるというか……。 そんなこと言えないけど。 「ちゅんちゅんが言う先輩の彼女ってのは俺。俺のことだから先輩の(みさお)とか気にしなくていいから、さっさと部屋変われ。」 「ほらぁ!なんか妄想みてますよ!?危ないです!!望月さんっ、ダメっすからね!本当にヤられますよ?!俺にはわかります!この人、本気です!!」 「物分かり悪い後輩だなぁ。これだから仕事も遅いんじゃねぇの?俺と先輩は付き合ってんの!わかる?!」 「わかんないっす!!」 誰か助けてくれ……。 城崎は普通にカミングアウトしてるし、ちゅんちゅんは前まで俺と城崎の関係を疑ってたくせに今は聞く耳持たないし。 これ、冷静になった時にちゅんちゅんが全てを理解して大事(おおごと)にならない…? 城崎も拉致あかないからって、後先考えず口にしてるだろ、こいつ本当……。 「城崎。」 「先輩は俺の味方で……、っ?!」 ちゅんちゅんに見えるように、俺は城崎の顔を両手で引き寄せて唇を重ねた。 後で勘繰(かんぐ)られるくらいなら、自分からはっきりと示して口封じした方がいいだろ、多分。 城崎も固まって、ちゅんちゅんはあんぐりと口を開けている。 「ちゅんちゅん、黙っててごめん。」 「え……、あ……、えっと……」 「びっくりしたよな……?ごめんな…。」 「え、あ、あの……、さきさん…は?」 「さきさんってのは、城崎のこと。俺も城崎も本気。もうちゅんちゅんはなんとなく気づいてそうだったから、ちゃんと伝えとく。」 ちゅんちゅんは状況整理に追いついていないのか、口を開けたまま、ぱちぱちと何度も瞬きしている。 城崎はやっと冷静になったらしく、さっきまで自分から俺との関係を大声で口にしていたくせに、今は俺の言葉に戸惑っている様子だ。 ちゅんちゅんに付き合ってることを言うって決心した理由が、自分が口を滑らせたことが原因だと気づいていないらしい。 「いや、えっと…、なんとなく……、そうかもとか思ったこともあったんすけど……、でも男同士だから……」 「うん。だから俺も隠してたよ。」 「っと……、えっと、じゃあ…、え…、部屋は……、変わりますね……?」 「うん。ありがとう。」 この場で俺だけはしっかりしていないと。 そうじゃないと、なんかめちゃくちゃになってしまいそうだし。 とりあえず部屋は変わってもらえるようだから、この二人の一悶着は終了したということでいいのかな。 「あの、えっと……」 「みんなには黙っててほしい。」 「……はいっ!」 「この事知ってるの、ちゅんちゅんの他に、涼真と千紗だけだからさ。本当に信頼できる人にしか話してないから。ちゅんちゅんを信用して言ったっていうのは理解してほしい。」 「はいっ!」 「ありがとう。じゃあ、仕事戻ろうか。」 静かになった二人を(たずさ)えて部署に戻ると、あまりにもおとなしい二人にみんなが不思議そうな顔をしていた。 結局その日、ちゅんちゅんは抜けて遅れていた分どころかいつもの半分以上の仕事を残して定時を迎え、俺と城崎が手伝って早々に残業を終えたのだった。

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