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第352話
そして11月15日。
朝から飛行機で東京を立ち、あっという間に沖縄に着いた。
いつもと違ったTHE 観光地な雰囲気に浮き足立つ。
「じゃあ夜は各自ホテルに戻ってこいよ〜。」
部長は営業部にそれだけ言って、社長と何処かへいってしまった。
社員旅行と言っても、ホテル代、交通費代が会社負担で、あとは自由行動、自己負担ってやつ。
部長クラスの上の方々は社長に着いてゴルフコース、もう社員旅行に慣れた30代くらいの中堅は各々好きに遊んでおり、新米は他部署の同期とワイワイ盛り上がるのが毎年見慣れた光景だ。
去年は北海道で、涼真と美味しいものを食べ回った記憶がある。
城崎と一緒に練 ったスケジュール表を持ち歩きながら、タクシーを待つ間話しかける。
「城崎は去年何してたんだ?」
「去年は一人で観光地巡りしましたね。」
「一人で?」
「先輩は柳津さんと行っちゃったし、同期とはノリが合わなかったし。あんまりいい思い出はないですね。」
「そっかぁ。」
去年はそこまで城崎のこと気にしてなかったからなぁ。
仕事ができる後輩ってくらいで、わざわざ何してるかまで知らなかった。誘ってやればよかったなぁ。
「今年はいい思い出にしような。」
「はい。先輩と一緒に居れるだけで既に楽しいです。」
「嬉しいこと言うじゃん。」
「事実なんで。」
リゾート地だからってハメを外してしまいそうだ。
まだ空港からそう離れておらず、周りには同じ会社の人ばかりなのに、勘のいい人になら怪しまれるんじゃないかって会話の内容。
周りは城崎に声をかけていいのかとそわそわしている。
そりゃ、狙ってる男が社員旅行で男といるなら、声をかけない手はないよなあ。
でも城崎に恋人がいるって噂が出回っているから、社員の女の子から声がかかる可能性は低い。
かけてくるとすれば……。
「お兄さん達、観光ですかぁ?」
「よかったら案内しましょうかぁ〜?」
うん。現地の女の子達。もしくは同じ観光客。
露出の多い服に、ケバいメイク。
普通の男性なら鼻の下伸ばしてしまいそうな胸の谷間に、ムチッとした太腿。
「先輩。」
「見てないって…。」
「見てた。」
城崎は表情ひとつ変えず、女の子より俺の顔を気にしている。
男なんだから、目くらいいっちゃうのは許してほしい。
「すみません。二人で回るので。」
「え〜?男二人なんて寂しくないですかぁ?私たちもちょうど女二人なんで、よかったら一緒に…」
「結構です。さよなら。」
城崎はやっと順番が回ってきたタクシーに俺を押し込み、作り笑いを顔に貼り付けて、バンッとドアを閉めた。
運転手も、声をかけてきた女性二人もポカンとしている。
「え…っと、お客様、どちらへ?」
「水族館まで。」
「出していいのかな…?」
「もともと二人なんで。」
女性が同行者だと思ったのか運転手は心配していたが、城崎のやや不機嫌な声のトーンを察して、タクシーは間もなく発車した。
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