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第357話

「やばかった!!!」 「はいはい、落ち着いて。」 興奮さめやらぬ俺を城崎は(なだ)める。 だってさ、話せなかったんだもん、海の中で。 「めちゃくちゃ綺麗だったなぁ〜。海の中ってすげぇ。なぁ、城崎、もっかい潜りたい!」 「体力持ちますか?」 「いける!全然いける!!」 「おじさん、延長料金とか払えばもう一回潜ってもいいですか?」 「あぁ、いいよ。(さいわ)い今日は後が詰まってないからね。」 城崎がおじさんに了承を得て、もう一度水中へ行く権利を獲得した。 やばいなー、ダイビング。 綺麗すぎて感動。 もう一度潜って満足した俺は、くたくたになりながら船に寝転がった。 「城崎〜、着替えたらホテル帰ろぉ…。」 「首里城行きたいって言ってませんでした?」 「もう無理…。疲れた……。」 本当はこの後首里城へ行って、夜は国際通りで飲んでホテルに戻るってプランを立ててたんだけど、もう無理だ。 2回目潜りたいと言った時に城崎に注意されたのに、思った以上に体力が衰えていた。 船で陸まで戻ってきて、水中カメラで撮った写真のデータを受け取る。 料金は予約した時に払っているから、これでお開きだ。 「また沖縄に来た時寄ってってね。」 「はい。ありがとうございました。」 おじさんに会釈して、タクシーが来るまで少し海沿いを歩く。 潮風が心地よくて目を瞑ると、唇が重なった。 「ん…、何……?」 「人居ないから、いいでしょ?」 「んぅ…っ」 いつもなら甘いキス。 今日は海水のせいか、少ししょっぱい。 城崎も同じことを思ってるのかな? 今にも笑いそうに、口角が上がってる。 「ふっ…あははっ!一緒のこと考えてる?」 「多分?」 「一緒に言おうぜ。」 「いいですよ。」 「「せーのっ!しょっぱい。………ぶはっ(笑)」」 やっぱり同じこと考えてた。 ハモったのがなんかツボに入って、お互い吹き出した。 「このキス、忘れなさそう…。」 「絶対思い出すよな、いつか。」 「また海でキスしたら思い出すんじゃないですか?」 「ぷっ…。そうかも?」 向かい合って笑っていると、電話で呼んでいたタクシーが迎えに来た。 「城崎、首里城行きたい?」 「ううん。先輩と二人きりになりたい。ちょっと早いけどホテル行きましょうか。」 「うん。あ、でも待って。寄りたいところあるんだった。」 時間を見てあることを思い出し、俺はタクシーの運転手にスマホの画面を見せながら場所がわかるか確認する。 運転手はナビを設定し、間もなくタクシーは出発した。

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