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第358話

着いたのは人のいない小さな海岸。 タクシーに待っててもらい、俺と城崎はタクシーから降りて海岸へ歩く。 宿泊するホテルには近いが、ダイビング体験をしたところからかなり距離があったから、ちょうど日の入り時刻が近い。 「すげー。砂サラサラだぞ。」 しゃがんで手で砂を(すく)って城崎に見せると、城崎も隣にしゃがむ。 砂だらけの俺の手を引き寄せて、抱きしめられた。 「どうした…?」 「可愛くて、つい。」 「そ、そっか……」 「今すごく幸せです。いや、もうずっとか。先輩とお付き合いさせてもらってから、ずっと。」 「…………」 「先輩、大好き。愛してます。」 夕焼けでロマンチックな雰囲気が漂う二人だけの海岸。 そんな空気に当てられてか、城崎は恥ずかしげもなく俺に愛の言葉を投げまくる。 今、俺の顔絶対に赤いと思う。 夕焼けのおかげでバレてないのかな…? 「先輩……」 「ん…?」 「キスしたい。ダメ?」 「…………俺は、いい…けど……、タクシーの運転手に見られたらどうすんの。」 「見えないよ。大丈夫。」 「んっ…」 ゆっくりと砂浜に押し倒されて、唇が重なる。 味わうように何度も角度を変えて、熱い舌に酔いしれる。 絡め合うように繋いだ手に時々力がこもり、愛おしさが込み上げる。 「城崎…っ」 「先輩、綺麗だよ。」 「っ…、ぁ…」 「俺にはもったいないくらい。……誰にも分けてあげないけど。」 俺を見下ろす城崎の表情は影になっていても分かるくらい幸せそうで、その表情を見て心がぎゅぅっと締め付けられる。 好きだなぁ…。 目の前で微笑むこの男が堪らなく好きだ。 「俺も…。城崎のこと誰にもやんねぇ。」 「はい。俺は先輩だけのものですよ。」 「絶対絶対絶ーっ対、俺以外の奴んとこ行くなよ?」 「だから離さないって何回も言ってるでしょ。」 体を起こされて力強く抱きしめられる。 いつのまにか辺りが暗くなり始めていて、俺はハッと我に返った。 「夕日!!」 「もう沈んじゃいましたね。」 「そんなぁ…。」 楽しみにしていたサンセットビーチ。 間に合って喜んでいた時間も束の間、城崎と愛を語らっている間に終わってしまった。 がっくりと項垂れていると、城崎が俺を後ろから抱きしめる。 「いつか綺麗な夕日、また二人で見に行きましょう。」 「うん。約束だからな。」 「こんな嬉しい約束、何回でもしてあげます。」 最後にもう一度だけキスをして、俺と城崎は海岸を後にした。 砂浜から出る前に城崎が俺の背中についた砂を払い、手洗い必須な俺の服を見て謝っていた。 タクシーに戻ると、思っていた以上に待たせていて、メーターが予想の2倍くらい上がっていて思わず苦笑したが、ここは払いますとホテルに着いた時に城崎が精算した。

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