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第359話

「へぇ〜。結構いいホテルだな。」 「本当ですね。」 タクシーに乗って到着したのは、そこそこ有名なリゾートホテル。 観光は自費だからか、ホテルにはこだわってくれたのか? フロントで会社と名前を伝え、部屋の鍵をもらう。 城崎は俺からイルカのぬいぐるみを受け取り、受付で郵送の手配をしていた。 郵送の手配を終え、二人で部屋に向かう。 「広っ!うわぁ、オーシャンビューじゃん。朝と夕方、綺麗なんだろうな…。」 部屋に入ると窓の外には一面の海。 もう暗くて見えづらいが、陽が昇っている時に見たら相当いい景色だと思う。 「先輩、ベッドどっち側がいい?」 「ベッド?どこでもいいよ。なんなら真ん中でもいいし。」 「真ん中はダメ。俺が真ん中です。」 「ん?城崎真ん中が好きなの?」 3つ横に並んだベッド。 端の方が気が楽だろうから、そっちを譲ろうと思ったんだけど…。 「先輩の隣に柳津さんいるの無理だし。寝顔とか見られたらどうするんですか。」 「いや、もう何回も見られてるんだけど…。」 「なんでそんな意地悪言うんですか!?」 城崎はショックを受けたような表情でそう言った。 だって、親友だし…。 今まで何回も寝泊まりしてたからなぁ。 城崎も分かってはいるのだろうが、それを認めるのは何だか悔しいらしく、いじけた顔をしながら俺を抱きしめた。 「ていうか柳津さんなら事情知ってるし、俺と先輩、同じベッドで寝てもよくないですか?」 「それは恥ずかしいだろ……。」 「先輩と一緒に寝たい。」 「城崎……」 「お願い。」 俺の首筋に顔を(うず)めながら、(すが)るように呟く。 か、可愛い……。 城崎に甘えられると母性がくすぐられて、何でもOKしてしまいそうになる。 でも、さすがになぁ…。 「だって同じベッドで寝たら、それだけじゃないだろ?」 「二人きりじゃないんですから、やっていいこととダメなことの分別(ふんべつ)くらいつきますよ…。」 「じゃあ本当に一緒に寝るだけか?変なとこ触ったり、キスとかもダメだからな?」 「え、キスもダメですか…?」 「ダメ。」 ほら、やっぱり寝るだけじゃないじゃん。 というか、恋人で同じベッドに入って、何もないわけないんだよ。 特に城崎なんて、絶対なんかするのは見え透いてるし。 「分かりました。何もしません。」 「だーめ。」 「本当にしない。先輩の乳首触ろうとか、お尻撫でようとか、キスいっぱいしようとか考えてたの全部諦めるから!」 「めちゃくちゃやる気満々だったんじゃねぇか。」 簡単に許可しなくて良かったと思う。 全然一緒に寝るだけのつもりじゃなかった城崎が、本当に全てを我慢できるかと聞かれると、なかなか信じ(がた)い。 ジト目で見ると、城崎は目を潤ませながら俺を見ていた。 「お願い…。」 「…………。」 「約束します。絶対何もしません。」 「…………。」 「お願いします…。」 「…………あー、もう。分かったよ。」 「え、やったぁ!!」 結局城崎のおねだりには断れず、俺が折れた。 城崎はわんこみたいに尻尾ぶんぶん振って喜んでいた。

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