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第364話

「先輩遅かったですね。何話してたの?」 「うーん……。なんかよくわかんねぇ。」 「ふぅん?あ、そうそう。これ美味しそうですよ。」 城崎は紅芋のジェラートを取り、自分のプレートに乗せる。 俺の分なのだろうか。 俺にどれだけ食べさせる気なんだ…? 「他に何か欲しいのありますか?あ、サーターアンダギーとか…」 「城崎、一回戻ろう。多い、さすがに。」 「………すみません。」 ストップをかけると城崎は俺の皿を見て我に返る。 多すぎるとやっと気づいたようだ。 席に戻る城崎の背中が何だか悲しそうに見えて、俺は城崎の服の裾を引っ張った。 「どうかしました…?」 「えっと、その………」 さっき涼真と千紗が言ってたのが本当だったら、城崎が今欲しい言葉…、というか喜んでくれるのって……。 周りを見てみんなが料理に夢中なことを確認。 ぐっと背伸びして、城崎の耳元に口と手を当てる。 「好きだよ。」 「……っ!!」 一言それだけ囁くと、城崎は驚いたようにビクッと跳ねて半歩下がった。 顔を真っ赤にして、目を見開いて俺を見ている。 「そんなびっくりしなくても…。」 「だ、だだ、だって…!!なんで今?!」 「…………なんとなく?」 「先輩の男タラシ!!今のは反則…!」 「いや、たらしてねぇし。したとしても、おまえだけだから。」 「お…、俺タラシってことですか…?!」 「まぁ俺がたらしている前提なら、そういうことになるかな?」 なんで俺が誰かをたらし込んでいる前提なんだよ。 と言うのはさておき、城崎がすげぇ嬉しそうだからどうでもいいか。 席についてもそわそわと落ち着きのない城崎。 後から席に戻ってきた涼真も、「どういう状況?」と苦笑いしていた。 「先輩、あの、俺部屋に忘れ物したんですけど…!」 「とってこれば?」 「先輩一緒に行きませんか…!?」 「えー。食ってる途中だし。」 盛りに盛られた料理を消費する俺とは対照的に、城崎は一口も進んでいなかった。 胃薬かなんか忘れたのか? そんなの飲んでたっけ? 「綾人、一緒に行ってやれば?」 「えー。」 「料理は逃げねぇじゃん。」 「逃げねぇけど冷めるじゃん。」 「まぁそうだけど。ほら、一緒に行きたそうじゃん?」 涼真に言われて目線を移すと、城崎は祈るように上目遣いに俺を見て手を合わせている。 「じゃあちょっと、行ってくる。」 「いってらっしゃい。」 席を立つと、城崎は嬉しそうに立ち上がって俺の後をついてきた。

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