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第367話

(うし)()(どき)、肩を叩かれ目を覚ます。 「城崎……?」 「しー。先輩、おはようございます♡」 指を立てて唇に当てながら、無邪気な笑顔で微笑む俺の恋人。 スマホを見ると2:15の表記。 こんな時間になんだっけ?と思い返すと、そういえば一緒に大浴場に行く約束をしていた。 窓際のベッドでは涼真が眠っていて、城崎は抱きしめるだけという約束をちゃんと守って、俺のベッドで一緒に寝ていた。 そっとベッドを抜け出し、静かにドアを開けて部屋を抜ける。 エレベーターに乗り、二人で息を吐いた。 「静かだからなんか緊張しましたね。」 「本当。みんな寝てたな。」 「ガヤガヤしてる部屋ありませんでしたもんね。」 ポーンと音が鳴り、1階で降りる。 廊下が見えるくらいの(あか)りは付いているが、深夜のため薄暗い。 少し怖くて城崎の腕をぎゅっと握ると、城崎は肩を抱き寄せて歩いてくれた。 「なんで丑三つ時なんだよ…?さすがに怖いって…。」 「幽霊なんていませんよ。大丈夫。」 「俺だって普段は怖くないし…。お化け屋敷とかは平気だか…うわぁっ!!」 ガタンっと物音がして、思わず城崎に抱きつく。 物音がした方を見ると、床に置物が転がっていた。 「棚から落ちただけですよ。」 「ゆ、幽霊が落としたのかも…。」 「大丈夫だって。先輩、本当かわいいなぁ。」 怖がりすぎて一歩が小さい俺の歩幅に、城崎は合わせて歩く。 いや、寧ろこういう時は早くここを通り過ぎたいんだけど。 「城崎ぃ…。」 「抱っこする?」 足がすくんでしまって立ち止まる。 城崎の誘いに首を縦に振ると、「可愛い。」と言いながら城崎は俺を抱き上げた。 所謂お姫様抱っこというやつ。 「顔隠してていいですよ?」 「…っ」 城崎に言われるがまま、俺は城崎の首に手を回してギュッと顔を隠すように抱き着いた。 しばらく歩くと大浴場にたどり着いたようで、脱衣所は明るく広く、お化けが出る様子はなさそうで俺はほっと胸をなでおろした。 「まさか先輩が怖がりだとは。」 「だから普段は大丈夫なんだって!」 「こういうときに大丈夫じゃないのは怖がりでしょ。」 「お化け屋敷は怖くないんだって!」 「あれは作り物だって分かってますからね。」 正論を返してくる城崎。 ぐうの音も出ない。 まだ丑三つ時は終わっていないので少し怖くて、服を脱いだ後も城崎にぴったりと体を寄せた。 「誘ってるんですか?」 「ちげぇよ!怖いつってんだろ!」 「はー……。平常心でいれる気がしない。」 城崎はまた俺の肩を抱き寄せて、大浴場へ向かう。 「言っておきますけど、裸でお姫様抱っこなんてできませんからね?」 「一応聞くけど、なんで…?」 「勃つから。」 ぴしゃんっとそう言い切られて肩を落とす。 怖いからまた抱っこしてもらおうと思ったけど、ダメだった。 仕方なく城崎にひっついたまま、歩みを進めた。

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