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第372話

「おはようございます。」 「ん……、ふぁ〜………。」 城崎に起こされて目を擦りながら伸びをする。 8:48………。 「え、もうそんな時間?!」 ガバッとベッドから飛び起きると、城崎に腕を引かれて胸の中に収まる。 部屋の窓から見える海は、太陽を反射してキラキラ輝いていた。 「涼真は?」 「もう朝ごはん食べて観光行っちゃいました。」 「早…。起こしてくれなかったんだ。」 「起こしてくれましたけど、先輩が気持ちよさそうに寝てたからそっとしておいてもらったんです。」 「そっか。」 まぁどうせ城崎のことだから、威嚇して涼真も苦笑いで諦めただけだと思うんだけど。 容易(たやす)く想像がついて思わず笑ってしまう。 「どうしました?」 「ん?いや、何も(笑)」 「何ですか〜?気になります。」 「大したことじゃねぇよ。それより朝のバイキングってまだやってるかな?」 「10時までやってます。行きますか?」 「うん、行く。」 「あ、待って。先輩。」 立ちあがろうとすると、クイッと裾を引っ張られる。 城崎の端正な顔が近付いて、唇が触れて離れていった。 「おはようのキス。まだでした。」 「………ん。」 「あとでいってきますのキスもしてくれますか?」 「…………いいよ。」 改めて考えると、このルールというか、習慣というか、めちゃくちゃ恥ずかしい。 正真正銘のバカップルじゃん。 別にいいんだけど…。嫌じゃないし。 着替えて、部屋を出る前に少し長めのキス。 廊下に出ると、見知った顔がちらほら。 「望月おはよー。柳津と一緒じゃねーんだ?」 久々に見る他部署の同期。 俺と涼真がいつもセットでいるときによく話してたからな。 城崎のことは知らないのかも。 「おはよ。涼真はもう観光行ったらしいよ。」 「へぇ〜。隣のイケメンは?」 「営業部の期待の星だよ。すげー仕事早ぇーの。」 「そのルックスで仕事もできんのか。すげーな。」 「城崎夏月です。望月さんには色々学ばせてもらってます。」 「ふはは!めちゃくちゃ社交辞令!」 城崎が挨拶すると、同期はケラケラ笑った。 いや、社交辞令って俺に失礼だから。 城崎は本当に教えてるっつーの…。 「社交辞令じゃなくて本音なんですけどね。」 「まぁ望月も営業部じゃ有望株って言われてたもんな。精々追い抜かれないよう頑張れよ〜。城崎くんも、応援してるわ!」 「じゃな!」と手を振って行ってしまった。 城崎は何故か不満げな様子。 「どうした?」 「いや………。いつか先輩の隣は俺って、みんなに思ってもらえるようになりたいなって思いました……。」 俺と涼真がセットと思われてることに嫉妬してるってこと…? は……、そんなの………。 「可愛すぎんだろ……。」 きゅぅ〜っと胸が締め付けられる感覚。 これが"萌え"というやつなのかもしれないと思った。

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