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第381話

社員旅行から一週間と少し。 11月最後の金曜日。 会社から駅まで一緒に帰宅している最中、城崎はスマホを見て苦虫を潰したような顔をした。 「どうした?」 「ごめんなさい、先輩。先帰っててくれますか?」 「ん、分かった。何かあったのか?」 「いや……、何もない……ことはないんですけど…。」 「うん?」 「帰ったら話します…。」 「わかった。」 城崎は面倒臭そうな顔で、駅の方へ走っていった。 何か急ぎの用事なのかな。 帰ったら話してくれるって言ってるし、まぁいいか。 城崎が浮気しないってのは、もう重々思い知らされたし。 寄り道せずにまっすぐ家に帰る。 この道もすっかり慣れたな。 もう同棲して二ヶ月経つもんな。早いなぁ。 エレベーターで11階まで上がり、廊下へ出ると、俺たちの家の前に誰かが座り込んでいた。 階間違えた?と思いエレベーターを振り返るけど、11階。 部屋は端だから間違えようがないし…。 「あの……」 「……!」 男の子…? 短髪だし、骨格はしっかりしてそうだし、背は高そう。 でも制服を着ているから学生。 高校生かな? 声をかけると、三角座りで座り込んでいた男の子が顔を上げた。 「えっ…。」 その顔を見て、思わず声を出す。 だって………。 「城崎……?」 「そうだけど。お兄さん、誰?」 家の前に座っていたのは、城崎によく似たまだ幼い男の子だった。 ていうか、「そうだけど。」って言った? 城崎の弟? え?弟いるなんて言ってたっけ?? 城崎が制服着てたらこんな感じなのかな? え、可愛い。写真撮りたい。 思わずスマホを向けると、怪訝(けげん)な顔をされる。 「え、何?お兄さん変質者なの?」 「あっ!?え、……ち、違う!!違います!!」 「じゃあ何者?」 「この家の住人…?」 「何で疑問系なんだよ。……つか、アレか。この家に住んでるってことは、兄貴の恋人とかそーゆーの?兄貴が好きそうな顔だもんな。」 城崎の弟?らしい。 頭をかきながら立ち上がる。 わぁ。俺より少し大きい。 「城崎の弟…なんですか?」 「そうだけど。ぷっ…(笑)何で敬語?」 「いや…、はじめましてだから…。」 「真面目〜。あ、それより鍵貸して?結構ここで待ってて寒い。」 「あ、はい。」 「サンキュー。」 もうどこからどう見ても城崎の弟にしか見えなくて、つい鍵を渡す。 城崎の弟は俺の手から鍵を取り、先に中へと入ってしまった。

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