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第393話

ビュービューと冷たい風が吹く。 12月に入ってから街はイルミネーションに彩られ、クリスマスムード一直線だ。 冬の営業にはコートが必須。 毎年みんなどんなコートを着てくるのか楽しみで、まぁでもコートは高いから毎年新人が何を着るのか楽しみにするくらいで…。 俺は無難にベージュのトレンチコートなんだけど。 何が言いたいかって、城崎がもうとにかく、格好良くて…。 「先輩、寒くない?」 「ひゃいっ!」 「ふふっ、なんでそこで噛むの?」 見惚れてたからだよ…!! 城崎は甘いルックス、ご自慢のスタイル、そしてスーツに加えて上質なコートを着こなしていた。 黒のチェスターコート。 うん、似合う。すげぇ似合ってる。 「先輩、ベージュ似合いますね。」 「えっ?そ、そう?」 「今月は業績負けるかも。」 城崎は笑いながらそう言った。 そんなわけあるか。むしろいつもより大幅に城崎の方が業績勝つまであるだろ、そのルックス。 城崎の営業成績は右肩上がりに伸び続け、夏頃から部署トップになった。 城崎曰く、俺と付き合い始めてからすこぶる調子がいいそうだ。 恋人として、そんなこと言われたら嬉しいに決まってる。 ただ上司としては、部下に負けてるのは割と悔しかったりする。 「今月、俺が業績勝ったらお願い聞いてくれる…?」 「いいですよ。何かしてほしいことありますか?それとも買って欲しいとか?何でもいいですよ。」 「張り合いないじゃん。おまえも何か強請れよ…。」 「強請っていいの?じゃあクリスマス予定空けててください。」 「とっくに空けてるっつーの。」 空けてないわけない。 城崎との初めてのクリスマスなのに。 去年は涼真と二人でチキン食いながら飲み明かしたっけ……。 「ちなみに先輩は何して欲しいんですか?」 「…か、勝った時に……言う。」 「負けてみようかなぁ…。」 「何言ってんの。クリスマス予定埋めちまうぞ。」 「じゃあ遠慮なく、勝たせてもらいますね?」 城崎は余裕の笑みで、俺に勝利宣告をした。 腹立つ……けど、格好良い………。 「城崎、これ脱いで…。」 「え、コート?」 「ん。」 「脱いだらさすがの俺も寒いですよ。何?俺に風邪引かせて休ませて勝つって魂胆ですか?」 「違う。……………その、……格好良すぎる…から…。」 言ってるうちに恥ずかしくなってきて、どんどん尻すぼみに声が小さくなる。 反応がなくて不安に思って顔を上げると、城崎は顔を赤くして鼻までマフラーに埋めていた。 「そーゆーの、卑怯です……。」 「………?」 「俺、本当に脱いじゃいますよ?」 「ダメ…。ただの嫉妬だから無視して…。」 「嫉妬って誰に?」 「城崎に見惚れてる奴らに決まってるじゃん、バカ…。」 城崎が格好良いのは当たり前なんだけど…。 でも、俺だけがいっぱい知っていたいのに。 拗ねていると、城崎に手を引かれて路地裏に連れ込まれた。

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