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第412話
夜景が広がるバスタブを前に、そわっと尿意を催した。
あ、やばい。
こんな綺麗な夜景を見ながら、尿意に耐えたくない。
「城崎…、あの………」
「なんですか?」
「その……、と、トイレ………、行ってくる……」
バスルームを出てすぐ横にあったはず。
逃げるように背を向けると、腕を引かれ、バスタオルを掛けられる。
「そのまま行ったら風邪ひく。というか、心配だから一緒に行く。」
「す、すぐそこだから!」
「シャワールームから出るだけで脚カクカクだった人が何言ってるんですか。」
有無を言わせず城崎はついてきて、あろうことか、トイレの中まで入ってきた。
「出てって!」
「ダメ。ちゃんと支えとくから。」
「無理だって!もう出ちゃうから…っ!」
「まぁあれだけお酒煽った上に、水もペットボトル一本くらい飲みましたからね。」
城崎はあっけらかんとそんなことを言い、俺のペニスを掴んで便器に向ける。
絶対に出したくないのに、尿意はどんどん迫り上がってきて、もう我慢ができないほどになる。
「や、やだ!本当にやだ…っ!」
「別に引かないですから。好きでやってるし。」
「ね、ほ、ほんとに…っ、無理だからぁっ…!」
「膀胱炎になっちゃいますよ。ほら、早く。」
「やっ…!あ、ぁぁ……。〜〜〜〜ッッ」
城崎に軽くお腹を押され、耐えられなかった。
ショロロロ……と勢いよくおしっこが発射され、俺は絶望しながら黄色く染まっていく水を見つめる。
終わった……。
恋人に排泄シーンを見られるなんて…。
「ぅっ……、ヒック……」
「え、なんで泣いてるんですか?!」
「バカァ…!も…、もぉお婿に行けないじゃんかぁ…。」
「?!べ、別に粗相したわけじゃないんですから!」
「うわぁ〜ん……。もぉ無理…。」
大粒の涙がぼろぼろと溢れ、床を濡らしていく。
城崎はおろおろと俺をフォローしようとするが、こいつ本当に俺が人前で排尿しても平気だと思っていたのか?
まさか人生でこんな経験すると思わなかった。
もう恥ずかしすぎて死ぬ。
なんでこいつは平気なの?
「先輩!俺、初めてじゃないですよ?!」
「はぁ?」
「新人の時、トイレで先輩が隣でおしっこしてるのガン見してたし…。」
「サイテー!!!」
「ゔっ……」
こいつ、あり得ない!!!
初めて聞いた衝撃の真実に、俺は思わず城崎の鳩尾 に本気でパンチした。
ドスッ…と鈍い音がして、城崎はよろよろと床に蹲 る。
「先ぱぃ……」
「ここで反省してろ!この変態っ!!」
「ちょ……、いてぇ……」
蹲 る城崎を置いて、俺はバスルームに戻る。
どんどん酔いが醒めて、恥ずかしいことばっかりで頭がおかしくなりそうだ。
まぁちょっと、いや、かなりドン引きしたけど、今日は百歩譲って許してあげようと思う。
せっかくこんないいホテル取ってくれたし…。
夜景も城崎と見たいから、湯船に浸からずにバスタブの縁に座って城崎が戻ってくるのを待った。
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