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第419話

マグカップを突き返すと、城崎は笑った。 「先輩、顔…ふふっ…。」 「苦いじゃん!!」 「苦くないとは言ってないですよ?それが良いって言ったの。」 「うぅ〜……。」 自分でも分かるくらい顔が歪んでる。 カフェラテをグッと飲むと、口の中に広がる苦味が少しマシになった。 「先輩って、大人っぽいのに甘いのじゃないと飲めないの、可愛いですよね。」 「はぁ?そんなことないだろ。ブラックとか飲めるようになりたいし…。」 「わかってないなぁ〜。ギャップですよ、ギャップ。ちなみに先輩の甘い物好きは、割と社内の女性の間で有名なギャップ萌え要素らしいですよ…。」 勝手に言い出して勝手に拗ねてる。 普段格好良いくせに、俺の前だけ可愛いんだよな…。 あ、これがギャップ萌えか。 「なんで拗ねてんの。」 「俺だけが知ってたらいいのに…、ン……」 可愛すぎて思わずキスする。 恋人の独占欲が強くてウザいって言ってる人、頭おかしいだろ。 こんな可愛くて仕方ねーのに。 「みんなが知らない俺、城崎はいっぱい知ってるだろ?」 「そうですけど…」 「全部独り占めとか、俺だってしたいし。でも無理じゃん。だからお互いだけが知ってる秘密、増やしてこ?」 「………はい。」 「城崎って多分淡白に見られてるだろうから、実は人一倍独占欲が強いってのも俺だけが知ってる秘密だな。」 笑ってそういうと、城崎は俺を抱きしめた。 城崎の甘えたモード、マジでクソ可愛いな……。 城崎を抱きとめて髪を撫でていると、部屋がノックされた。 「朝食きたっぽい。取ってくる。」 「だめ!!」 「え?」 「そんな格好で出ちゃダメです。俺が行くから、先輩は座ってて!!」 さっきまであんなに可愛かったのに、城崎はいきなりよそ行きの顔に変わって、リビングルームを出て行ってしまった。 たしかに俺ってば、裸にバスローブだ。 どこの貴族だよ。 つっても、城崎もボクサーパンツにバスローブだから、俺とほぼ変わらない気がするけど。 「先輩っ、来ましたよ、フレンチトースト!」 「おぉ!」 「あとパンケーキも頼みましたし、ヨーグルトのフルーツ乗せ、あとクロワッサンにベーグルと…」 「ぶふっ…!頼みすぎ(笑)」 「先輩何食べたいかなぁって。本当はビュッフェだったから。」 「そうなんだ。……食べていい?」 「もちろん。はい、あーん♡」 プルプルすぎて今にも崩れそうなフレンチトーストを口元に持ってこられる。 口を開けると、トロトロの食感と、牛乳と卵をたっぷり吸ったフレンチトースト特有の甘さが口の中に広がった。 「んっま!」 「美味しい?」 「城崎も食べてみて!」 「俺は甘いのそんなに好きじゃないんで…」 「いいから!」 城崎の口の前にフレンチトーストを持っていくと、あ…と控えめに開けてくれた。 そのまま突っ込むと、咀嚼した後、口角が上がった。 「すげぇ美味い。」 「だろ?」 「さすが一流ホテルですね…。レシピ知りたい…。」 城崎は目をキラキラさせて、フレンチトーストに夢中になった。 俺はその間に他のものを食べ進め、腹一杯になるまでモーニングを満喫した。

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