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第423話
目的のカフェに到着した。
ドーナツが美味しいと最近話題のカフェだ。
この手の情報に強いわけではないが、千紗に聞いて興味が湧いた。
店の前はかなり人が並んでいて、店に入るまでに1時間はかかりそうだ。
「やっぱり今日は混むよな…。」
「どうしますか?別の日にまた来ます?」
「並ぶの嫌だよな…?」
「俺は先輩が行きたいなら全然苦じゃないですよ。でも先輩が風邪引かないか心配。」
きゅん…。
優しい…。なんでそんなに格好良いの…?
見惚れていると、城崎は列の先頭を指差した。
「あ、テイクアウトあるみたいですよ。」
「え!本当?」
「先輩がいいなら、テイクアウトにしましょう。」
店内はゆるふわで可愛らしい雰囲気と聞いた。
俺は特に店内に興味はなかった、というよりはむしろ、気にはなってるけど店の雰囲気的に男だけで入るのが気まずいなとすら思っていた。
テイクアウトがあるならそっちの方がいい。
気になるドーナツをいくつか買って、カフェを後にした。
ドーナツ食べたいけど、今は素手で外気に触れてるとすぐに手が悴 む。
持ち込みOKな場所なんてないしな…。
「暗くなるまでどこで時間潰すかですね…。」
「俺はその辺で喋ってても……クシュンッ…」
「どこか店、入りましょう?」
「うっ…、悪い……。」
俺がくしゃみをしたからだよな…。
城崎はスマホをみて、色々探してくれてる。
「先輩、Aquaでもいい?」
「この時間って空いてるの?」
「麗子ママがいいよって。ちょうどドーナツも多めに買ったし、ここからそう遠くないし、先輩がいいなら。」
「行きたい。ありがとう、聞いてくれて。」
麗子ママに連絡をとってくれていたらしい。
Aquaに行くのは久しぶりだ。
それに麗子ママの前なら、城崎に甘えても問題ないし。
開店前に開けてくれるなんて優しすぎる…。
「先輩、なんでも話しちゃ駄目ですからね?」
「分かってるよ。」
「前は酔って何でもかんでも話してた。」
「今日は飲まないから!大丈夫。」
確かに前は話した。
ベラベラ話した。
おまけに思わぬところで城崎の誕生日を知って、泣いた気がする。
「半年ぶりくらい?手土産ドーナツだけじゃ失礼かな?」
「いいでしょ。あの人が待ってるのはお土産話だし。」
「していいの?」
「報告くらいはね。詳しいことはダメ。」
あれから色々あった。
旅行したり、同棲したり…。
城崎との思い出を惚気られる相手は少なくて、話せるのが楽しみだ。
電車で数駅、降りて少し歩くとAquaに着いた。
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