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第440話
「ただいま。」
ガラガラ…と玄関の引き戸を開けて中に入る。
居間からバタバタと父さんと母さんが出迎えにきてくれた。
「綾人、お帰りなさい。」
「仕事はどうだ?去年より元気そうな顔してるじゃないか。」
母さんは俺のコートを預かり、ハンガーに掛ける。
父さんと話しながら居間へ向かうと、大翔も後ろをぴったりとくっついてきた。
はんてんを羽織らされ、コタツに誘導される。
母さんが台所の方からおしるこを持ってきて、それを食べてる間におせちが並べられた。
「何から何までありがとう。俺も手伝うのに。」
「いいのよ。今日は大翔が頑張ってくれてるから。昨日からずっと兄さん兄さんって、綾人のことずっと待ってたのよ。おせちも兄さんと食べるーって言い張るから、私たちも我慢しちゃった。」
「ごめんね、母さん。ありがとう、大翔。」
「さて、食べるか!今年の抱負言った人から祝い箸配るぞ。」
父さんがニコニコと場を仕切る。
抱負かぁ…。
「じゃあ俺から。今年はもっと仕事頑張って昇任する。」
「お。いいじゃないか、綾人。大翔も何かあるか?」
「僕は志望校に受かるように計画的に勉強頑張る。」
「よーし、頑張れよ。」
父さんは俺と大翔に祝い箸を渡す。
もう大翔も受験生か。
「大翔、頑張れ。」
「はい!頑張ります!」
「綾人聞いてくれよ、大翔の志望校、W大なんだぞ?」
「へぇ、すごいな。大翔って、そんな頭良いんだ?」
「今は学年のトップ10には入ってるんだぞ。な、大翔?」
「はいっ!東京の大学に行きたくて頑張ったんです!」
大翔は俺のことをキラキラした目で見つめた。
褒めて欲しいのかなと頭を撫でると、それはそれは嬉しそうにうっとりと目を瞑って幸せそうな顔をした。
んー、可愛いけど、いくつか不思議な点が…。
「でも東京なんていくらでも大学あるだろ?なんでW大なんだ?」
「父さんがいいとこじゃないとダメって。それに、兄さんの勤務地に近いところがいいなって。」
「え?なんで俺の勤務地?」
「僕、大学生になったら兄さんと一緒に暮らしたくて!そのために頑張ってるんです!」
え、ええ〜?!
いやいやいや、待って。なんで?!
「ま、待って?俺と暮らすの?」
「はいっ!」
「いいじゃない。あなた達仲良いし、それに大翔は真面目すぎるから、東京に一人で行かせるのは心配だし…。」
母さんは悩みを解決したみたいにすっきりした顔で手を合わせた。父さんも頷いている。
たしかに大翔に懐かれてる自覚はあったけど、まさかそこまでとは思ってもいなかった。
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