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第446話
城崎と寝落ち通話をし、目覚ましもかけずに実家の空気に安心しきって眠りについた俺が起きたときには、時刻は既にもう10時半頃だった。
頭を掻きながら居間に降りると、俺以外は家を出る準備を終えていた。
「おはよう、綾人。」
「………起こしてくれてもよかったのに。」
「気持ちよさそうに寝てるから、急ぎでもなかったしね。」
母さんは今日も雑煮を食べながら、こたつでテレビを見ていた。
幸い祖母の家はここからそんな離れておらず、昼までに着けば大丈夫だからのんびりさせてくれたみたいだ。
「あ、そういえば、俺今日ばあちゃん家行った後東京戻るから。」
「え?明日までいるんじゃなかったの?」
「そのつもりだったけど、予定変更。」
母さんにそう伝えると、廊下と居間を繋ぐ引き戸が勢いよく開けられた。
「兄さん!帰っちゃうんですか?!」
「あぁ、大翔…。ごめんな、短い間しかいれなくて。」
「嫌ですっ!明日までいるって言ってたじゃないですか!!」
ひしと抱きしめられ、やだやだと強請られる。
聞き分けの良かった大翔にこうも甘えられると、気持ちが揺らぎそうになってしまう。
「ごめん。約束しちゃったから…。」
「………彼女ですか?」
「まぁ……、そうかな。」
どんどん男だとカミングアウトしにくい状況を自分で作ってる気がする。
と思いながらも、家族に話すのはもう少し将来の話についてしっかり話し合ったあとかなと考えてるから、まぁいいか。
「兄さんは僕より彼女が好き…?」
「え。いや……」
「僕の方が昔から兄さんのこと好きだし!やだ!帰らないでくださいっ!」
わ〜……、どうしよう。
苦笑していると、母さんが大翔の首根っこを掴んだ。
「こら、大翔。お兄ちゃんのこと困らせないの!」
「だって…!兄さん三が日の間は実家にいるって……」
「事情が変わったんでしょ。そもそも彼女と家族は別枠なんだから。別に綾人があんたのことが嫌いになったわけじゃないんだし、そんなみっともなく引き止めないの。」
母さんに言われ、大翔はシュン…と残念そうに項垂れた。
大翔には申し訳ないけど、俺も昨日の今日で城崎に会いたくなっちゃったし。
本当俺も城崎もお互いに堪え性がなくて、離れていられないなんて、社会人として致命的な気がする。
スマホを開くと、『待ってます。』とだけメッセージが入っていて、ただその一言だけでとても気分が浮上した。
「あ、そうだ。大翔、これお年玉。」
「いいです。兄さんが使ってください!」
「学生は時間あるけど金がねぇだろ?俺は金ならそこそこあるから、好きに使いな。つっても大した額じゃないけど。」
遠慮して受け取らない大翔の手を掴み、無理矢理ポチ袋を握らせる。
毎年1万円だけど、今年は大学受験も頑張るみたいだから2万円。
大翔は何に使うんだろうか。
参考書とかかな?
「本当にいいのに…。ありがとうございます。」
「ん。じゃあそろそろおばあちゃん家行くか。」
「僕が助手席座ります!」
久々に俺が運転することになり、助手席には大翔が座ってビシビシ当たる視線を感じながら祖母の家へ車を走らせた。
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