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第464話
午後の業務も終わり、新年会に行く人、まっすぐ家に帰る人、少し残業する人、それぞれ散っていく。
「先輩…、本当に行くんですか?」
「行くってば。そろそろ諦めろ。」
居酒屋を目の前にして、城崎は俺の服の袖をぐいぐい引っ張って抵抗する。
病院嫌がる子どもみてぇ。
「お。望月じゃん。おっす〜。」
「あぁ、社員旅行ぶり。」
「営業部期待の星の城崎くんも一緒じゃん。」
「どうも…。」
社員旅行二日目に出会った他部署の同期。
城崎のことも覚えててくれたみたいだ。
「そういや望月さ、秘書課の諸角さん振ったってマジ?」
「は?振ってはないけど…。」
「なーんか年明け早々話題になってんぞ。諸角さんがボディタッチ激しめに迫ってたのに、おまえ酔っ払って先に帰ったって。」
「あぁ……」
「普通酔っ払ったときこそワンナイトじゃね?しかも諸角さんだぞ?俺なら絶対ヤッてたな〜。」
こいつ最低じゃねぇか。
まぁ俺は恋人と盛り上がってたんですけど…。
思い出して赤くなっていると、城崎につつかれる。
「先輩、店入ろ。」
「あぁ。じゃあな、また後で。」
同期に手を振って先に店に入る。
何だこいつ。さっきまで帰ろうって言ってたくせに。
不思議に思って城崎を見上げると、ムッとした顔で俺を睨む。
「どうしたんだよ?」
「俺、先輩が他の人と話すの嫌って言った。」
「悪い。でも多少のコミュニケーションは大事だろ?」
「…………今日、嫉妬で狂いそう。」
拳をぎゅっと握る城崎を見てると、なんだか猛烈に抱きしめたくなった。
早く帰って安心させてやりたいなぁ。
あー、やっぱ今日不参加で帰ろうかな…。
そう思った矢先、後ろからドンっと背中を押された。
「望月!城崎も来てくれたのか!」
「部長、お疲れ様です。」
逃げ道を失ってしまった。
部長に連れられ、宴会場へ到着。
今日は城崎の隣をキープするつもりで席に着く。
「先輩、離れちゃ嫌ですよ?」
「挨拶回りは行くってば。さっきも言ったけど、離れたくないならついてこい。」
「はーい。」
面倒臭そうに返事をして、俺に身を寄せる。
掘り炬燵 式の席だから足元が見えないのをいいことに、ツンツン足先で遊んでくる。
…っとに、かわいいな。
しばらくして新年会が始まり、新年の挨拶とともに乾杯が交わされた。
俺は城崎の隣で烏龍茶を飲み、適当に目の前にある飯をつついた。
いいなぁ。城崎はビール飲んでる。
「なぁ、ちょっとだけくれよ。」
「ダメ。どうせ後で飲むんでしょう?」
「ちぇ。」
部長たちに挨拶回りする時に飲むことを知っているから、最初からセーブしろということらしい。
本当に管理されてんじゃん、俺。
「城崎さーん♡あけましておめでとうございますぅ♡」
「え。あー、今年もよろしくお願いします…?」
突然何人かの女性社員が押し掛けてきた。
城崎の様子を見るに、誰かすら分かっていないようだ。
愛想笑いする城崎を横目に枝豆を皿にプチプチ出していると、逆隣に見知った人影が現れた。
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