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第466話
千紗がいなくなったのに、城崎は俺の腹に回した手を離す気はないようだった。
「おーい。目立つぞ?」
「…………」
「帰ったら甘えていいから、今は我慢しろ。」
そう言うと、城崎は渋々俺から手を離した。
今日の城崎、マジで可愛いな。
だからって抜け出してトイレとか行ったら、また大変なことになりそうだし…。
先に挨拶回り済ましちまうか。
「城崎、挨拶回りして帰ろっか。」
「……はい。」
「一緒に来てくれるか?」
「勿論です。」
城崎を連れて、まずは部長に酒を注 ぎに行く。
他部署の部長とワイワイ盛り上がっていたが、俺が挨拶回りにきたことに気づいてくれた。
「わざわざ悪いな、望月。」
「いえ。今年もよろしくお願いします。」
「城崎も挨拶回りするなんて珍しいな。望月の上司を敬う姿勢は見習わなきゃいけないぞ。」
部長は城崎の背中をバンバン叩く。
俺は一年目の時から、飲み会の席では部長やお世話になってる人たちに酒を注ぎにいく習慣をつけているから、割と上からは気に入られていると思う。
気に入られるために始めたわけではなく、ただこれが当たり前だと教育係の先輩に教えられて習慣になっただけなんだけど。
軽く話しながら酒を飲んでいると、部長が思い出したように話を切り出した。
「そうそう。2月に有休取りたいって聞いたぞ。」
「あ、はい。すみません、お忙しい時期に。」
「いやー、まぁおまえらにはいつも頑張ってもらってるからな。たまにはリフレッシュしてこい。二人で行くんだろ?」
「はい。お土産買って帰りますね。」
「楽しみにしてるぞ。まぁでも、俺はびっくりしたよ。まさか2人で旅行に行くまでの仲になってるとは知らなかった。」
「ははは……。」
付き合ってます、とは口が裂けても言えない。
適当にあしらって席を立ち、また別の上司に酒を注ぎに行く。
突然社長が顔を覗かせたりとサプライズはあったものの、無事挨拶回りを終え、みんなより一足先に帰ることにした。
店を出ると城崎は上機嫌で俺の手を握り、ほろ酔いの俺もあまり周りの目を気にせずその手を握り返した。
通りすがる見知らぬ女性に「今の人イケメーン♡」なんて言われてる俺の彼氏。
うん。イケメンだよなぁ、わかる。
「なぁ〜、城崎。」
「どうしました?」
「おまえ、本当イケメンな。」
「なんですか、急に。」
「なんとなく。改めて思っただけ。」
「そういう先輩は世界一可愛いですよ。」
「なんだよ、急に。」
「なんとなく。改めて思っただけです。」
急に二人で誉めあって、「意味わかんねー」とお互い吹き出した。
あぁ、好きだな。
ニヤける口元を抑えきれないでいると、ほっぺを摘まれた。
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