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第489話
路面電車に揺られ数十分。
道後温泉駅に到着した。
「おー!!雰囲気あるなぁ〜。」
「素敵ですね。でもゆっくり見るのは後にして、まずは荷物置きに行きましょう。」
「なぁ、写真だけ!」
「今でもいいですけど、あとで浴衣着てから一緒に撮りませんか?」
「浴衣…!?」
「はい。レンタル予約してるので、着付けてもらいましょう?」
たしかにちらほら浴衣で歩いてる観光客が見える。
もちろん冬だから丹前 や上着は着ているけど。
やべぇ…。なんかすげぇカップルっぽい。
「男同士で浴衣って、変じゃねぇかな…?」
「さぁ?観光地だし、気にしすぎじゃないですか?俺は全然アリだと思いますけど。」
「でも…」
「先輩、あんまり着たくない?」
「着たいよ。俺が着たいっていうよりは、城崎が浴衣着てんの見たいんだけど…。」
「俺も先輩の浴衣姿見たいです。たくさん写真撮って、思い出残しましょう?」
「うん!」
そうだよな。
こんなとこまで来て、周りの目気にして楽しめないの、勿体ない気がしてきた。
吹っ切れると周りの目なんて全く気にならなくなって、城崎の手を握って前に進む。
「先輩、手嬉しいんですけど…」
「あ…。ご、ごめん!ダメだった…?」
「じゃなくて。前歩いてますけど、ホテルの場所分かるんですか?」
「…………」
たしかに。
任せっぱなしにしてたから、全然場所知らねぇ。
「ふふっ。こっちです。」
「…っ!」
城崎は繋いだ手を恋人繋ぎに握り変え、俺の手を引いて先導した。
顔熱い。
緊張して手汗かいてるけど、引かれてないかな?
あー、もう。恥ずかしい……。
付き合ってから半年以上も経つのに、初めて好きな子とデートした時みたいにドキドキして、緊張して、心がきゅっと絞まるみたいに嬉しい。
城崎の背中は同じ男で、体型もそんなに変わらないはずなのに、広く見えるし、すごく安心する。
どんな俺でも受け入れてくれるって、今まで何度も教えてくれているからだと思う。
「先輩、着いたよ。」
「あ…、うん。」
「どうしたの?疲れちゃいました?」
「ううん。大丈夫。」
ホテルに入ると、フロントマンが来て、城崎が手続きを済ませていく。
部屋の鍵をもらって、エレベーターへ向かう。
「あ、先輩。楽しみにしてたみかんジュース、飲んで行きますか?」
「いい…。あとで飲む。」
「……ふふっ、わかりました。」
何だか無性に甘えたくなって、ロビーにあったみかんジュースの蛇口なんてそっちのけで部屋に急いだ。
城崎も俺の顔を見て分かったのか、嬉しそうに俺の腰を抱き寄せてエレベーターに乗り込んだ。
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