491 / 1069
第491話
着付けのサービスをしているホテル内のレンタルショップへ行き、城崎は俺の浴衣を選んで着付けを依頼した。
別々の更衣室に入り、お年を召されたベテランの女性が対応してくれた。
「お客様はどこから来られたんですか?」
「東京です。」
「まぁ!そんな遠いところからわざわざ。今日はお疲れじゃないですか?」
「楽しくて疲れも飛びますよ。有休取ってリフレッシュです。」
「素敵ですね。道後を選んでくださり、光栄です。」
話しながらも手際よく着付けは進んでいく。
鏡に映る自分を見て、浴衣があまりにも似合っていて驚いた。
城崎って、俺より俺に似合うもの分かってるんだな。
「キツくないですか?」
「はい。」
「できましたよ。お連れ様も着付け終わっているみたいです。観光、楽しんできてくださいね。」
「ありがとうございました。」
更衣室を出ると、城崎が壁にもたれかかって待っていた。
ちょ…、待って。格好良すぎない…?
夏祭りの時のシンプルな浴衣とは一転、色付きの柄物。
雰囲気は全然違うのに、めちゃくちゃ格好良い。
「お、お待たせ…!」
「ん。先輩、すげー可愛い。」
「城崎も似合ってる。」
「ありがとうございます。」
自然と手を差し出され、繋いでいいものかと迷っていると、城崎は迷いなく俺の手を握った。
指を絡められ、当たり前のように恋人繋ぎをする城崎が男らしくて、胸がキュッとなる。
「先輩、どこから回りますか?写真撮りたい?それとも食べ歩きする?」
「どっちも。」
「ふふっ…、そうですね。夕食もありますし、軽くじゃこカツとか食べましょうか。有名ですよ?」
「食う!……あ、ちょっと待って。」
話しながらホテルを出ようとする時に思い出す。
蛇口のみかんジュース!!
「あぁ、そういえばこれ一番楽しみにしてましたもんね、先輩。」
「飲んでいい?」
「もちろん。帰ってきてからもどうぞ。」
ホテルの入り口近くにある専用の蛇口。
何種類かあって、温州みかんの蛇口をひねる。
「うおおお!すげえ!!!」
「じゃあ俺は不知火 にしよ。」
「それも飲みたい!」
「どうぞ。」
蛇口ひねればいいだけなのに、そんなことも忘れて城崎のコップを受け取ってジュースを飲む。
同じみかんでも味が全然違うんだなぁと感動。
「楽しいな!」
「えぇ、楽しそうな先輩見てると俺も楽しいです。」
「これ家庭用とかねぇのかな?めちゃくちゃ欲しい。」
「先輩って、そんなにみかんジュース好きでした?」
「いや?あー、そう考えると蛇口から炭酸出てくるのもいいな。そしたらいつでもソーダ割できるし。」
「お酒はダメですよ?」
「ちぇー。」
他愛もない話をしながら、試飲を楽しむ。
他の味も飲んで、満足してホテルを後にした。
ともだちにシェアしよう!