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第492話

今は2月初旬の夕暮れ。 外気はかなり冷え込み、丹前の上から上着を着ているのに寒いくらいだ。 「あそこのじゃこカツが有名みたいですよ。」 「へぇ〜。じゃあ食べる。」 「あとね、向こうには足湯もあるみたいです。」 「足湯!いいな!行こう!」 「はい♪」 恋人繋ぎをして、見慣れない街を歩く。 薄暗くなった外を温泉街の淡い灯りが照らして、まるで別世界にいるみたいだ。 「おじさん、じゃこカツ2つ。」 「あいよ!へぇ、お兄さんたち男前だね!観光かい?」 「はい。東京から来ました。」 「ほぉ〜!都会の子は本当綺麗だなぁ。」 「いえいえ、そんなことないですよ。」 城崎は店のおじさんと話しながら、じゃこカツを一つ俺に手渡した。 サクッとした歯応えに、中はふんわりしててじゃこの風味が広がって美味しい。 「美味しい…!」 「おーおー。うちのじゃこカツは美味いよ!もう一個食べるかい?」 「ん…。じゃあ頂きます。」 お金を渡して、追加でじゃこカツを食べる。 城崎はそんな俺を見て苦笑した。 「ホテル戻ったら夕食もあるんですから、ほどほどにしてくださいよ?」 「わかってるよ。美味いんだもん。」 「美味しいですけど。」 城崎を見上げると、困った顔して笑いながら、俺の唇を指で撫でる。 「カス付いてる。」 「へっ?あ、ありがと…。」 「なぁなぁ、もしかしてお兄さん達さ…?」 俺と城崎のやりとりを見て、店のおじさんがひそひそと周りに見えないように小指を立てる。 城崎がわざとらしく恋人繋ぎを見せつけると、おじさんは驚いたように目を見開いた。 「へぇ、美男同士お似合いだ。都会は進んでるんだねぇ。こういうのが当たり前なのかい?」 「いや、今日は観光先だから羽目外してるだけですよ。普段は内緒です。まだ偏見の目は多いですから。」 「そうなのかい。いつか日本も偏見や差別がない国になるといいね。……あ、そうだ。道後温泉の本館近くにね、恋のパワースポット?っちゅーのがあるよ。若い子に人気でね、女の子が多いけど、行ってみたらどうだい?」 「ふふっ…、ありがとうございます。一度見に行ってみます。」 城崎がおじさんと話してる間、俺は無言で話を聞いていた。 恋のパワースポットかぁ。 調べたから知ってる。 結び玉が有名で、SNSでよく若い女の子が投稿してる小さなお寺だ。 「先輩、明日にでも行きますか?」 「いいのか?」 「俺は先輩と一生添い遂げたいから、神様にでもなんでも縋りますよ。」 「ぶっ…!大丈夫だよ、俺は城崎から離れねーから。」 ぴたっと体を寄せると、城崎は嬉しそうに俺の肩を抱いた。 あー、好き。幸せ。 ずっとこうして誰の目も気にせず、城崎とイチャつけたらいいのにな…。

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