492 / 1069
第492話
今は2月初旬の夕暮れ。
外気はかなり冷え込み、丹前の上から上着を着ているのに寒いくらいだ。
「あそこのじゃこカツが有名みたいですよ。」
「へぇ〜。じゃあ食べる。」
「あとね、向こうには足湯もあるみたいです。」
「足湯!いいな!行こう!」
「はい♪」
恋人繋ぎをして、見慣れない街を歩く。
薄暗くなった外を温泉街の淡い灯りが照らして、まるで別世界にいるみたいだ。
「おじさん、じゃこカツ2つ。」
「あいよ!へぇ、お兄さんたち男前だね!観光かい?」
「はい。東京から来ました。」
「ほぉ〜!都会の子は本当綺麗だなぁ。」
「いえいえ、そんなことないですよ。」
城崎は店のおじさんと話しながら、じゃこカツを一つ俺に手渡した。
サクッとした歯応えに、中はふんわりしててじゃこの風味が広がって美味しい。
「美味しい…!」
「おーおー。うちのじゃこカツは美味いよ!もう一個食べるかい?」
「ん…。じゃあ頂きます。」
お金を渡して、追加でじゃこカツを食べる。
城崎はそんな俺を見て苦笑した。
「ホテル戻ったら夕食もあるんですから、ほどほどにしてくださいよ?」
「わかってるよ。美味いんだもん。」
「美味しいですけど。」
城崎を見上げると、困った顔して笑いながら、俺の唇を指で撫でる。
「カス付いてる。」
「へっ?あ、ありがと…。」
「なぁなぁ、もしかしてお兄さん達さ…?」
俺と城崎のやりとりを見て、店のおじさんがひそひそと周りに見えないように小指を立てる。
城崎がわざとらしく恋人繋ぎを見せつけると、おじさんは驚いたように目を見開いた。
「へぇ、美男同士お似合いだ。都会は進んでるんだねぇ。こういうのが当たり前なのかい?」
「いや、今日は観光先だから羽目外してるだけですよ。普段は内緒です。まだ偏見の目は多いですから。」
「そうなのかい。いつか日本も偏見や差別がない国になるといいね。……あ、そうだ。道後温泉の本館近くにね、恋のパワースポット?っちゅーのがあるよ。若い子に人気でね、女の子が多いけど、行ってみたらどうだい?」
「ふふっ…、ありがとうございます。一度見に行ってみます。」
城崎がおじさんと話してる間、俺は無言で話を聞いていた。
恋のパワースポットかぁ。
調べたから知ってる。
結び玉が有名で、SNSでよく若い女の子が投稿してる小さなお寺だ。
「先輩、明日にでも行きますか?」
「いいのか?」
「俺は先輩と一生添い遂げたいから、神様にでもなんでも縋りますよ。」
「ぶっ…!大丈夫だよ、俺は城崎から離れねーから。」
ぴたっと体を寄せると、城崎は嬉しそうに俺の肩を抱いた。
あー、好き。幸せ。
ずっとこうして誰の目も気にせず、城崎とイチャつけたらいいのにな…。
ともだちにシェアしよう!