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第502話
「城崎のバカ!」
「許してよ、先輩。」
「やだ!」
12時に旅館を出た。
頬を膨らます俺を、城崎が宥める。
だって城崎ってば、酷いんだ。
「でもまさか本気で焦ってたとは思わなかったんですよ。」
「普通チェックアウト10時半って教えられてたら焦るだろ!!」
「この俺がそんなバカなことすると思います?ちゃんと延長してましたよ。事前に。」
「だから、それを俺にも共有しろ!!」
10時半の予定だったチェックアウトを、チェックインの時に時間変更していたらしい。
なんで教えてくれなかったかと聞いても、「俺が先輩の裸を他の人間に見せるわけないんだから、時間過ぎてもシてるってことはそういうことでしょ。」と言われる。
要約すると、「俺の性格的に考えればわかるでしょ。」と言いたいらしい。
冷静になれば考えつくかもしれないけど、焦った頭でそんなの分かるわけないじゃん。
「でも流されちゃう先輩可愛かったなぁ。」
「はぁ?!」
「チェックアウト10時半って思ってたのに、結局俺に付き合ってくれたでしょ?」
「嫌って言った!」
「口だけね?あー、本当かわいい。好き。」
周りに人がいないのをいいことに、城崎は俺の頬にキスしてくる。
もう…。仕方ねぇな……。
「ていうか、俺が怒ってる理由それだけじゃねぇからな。」
「え?他にもあるんですか?何ですか?」
「風呂上がりのビール……、飲んでない。」
「ああ。」
「ああ、じゃねぇ!楽しみにしてたのに!」
チェックアウトの時に冷蔵庫に残っている瓶ビールを見て、さっき落ち込んだ。
あれだけ楽しみにしてたのに、流されて忘れていた自分にも…。
「逆にあのままエッチ止めてよかったの?」
「…いや、それは……」
「無理でしょ?まぁお風呂上がりのビールは帰ってから楽しみましょ?」
瓶ビールの入った袋を見せながら、城崎は笑顔でそう言った。
「ちなみに怒ってること、まだあるからな…。」
「え、まだあるんですか?」
「………チェックアウト遅いせいで行けないじゃん…。」
「どこに?」
「………パワースポット。」
昨日おじさんに教えてもらった恋のパワースポット。
明日行こうって言ってたくせに、忘れたのかよ…。
「今向かってますけど。」
「は?!無理だろ!」
「なんでですか?」
「もう観光客いるかもじゃん!SNSで人気なんだぞ?朝早くとかに行かないと人居るだろ…。」
「居たらダメなの?」
「居たら…、男同士で行ったら見られるじゃん…。」
なんで城崎はそんな堂々としてんの?
意味わかんねぇ…。
「先輩、まだ俺とそういうとこ行くの抵抗ある?」
「抵抗あるんじゃなくて…。何回も言ってるけど、城崎が変な目で見られんのが嫌なの。」
「じゃあ何度でも返しますけど、俺はそんなの気にしないし、先輩が嫌じゃないなら、普通に男女が行くようなデートスポットとかも行きたいです。」
「でも…」
「先輩と一緒にいろんなところ行きたい。たくさん思い出作りたい。先輩に男同士なんて気にせずに楽しんでほしい。俺は周りにどう思われても平気です。」
もう、何なの……?
何でそういうこと簡単に言ってのけんの?
「うぅ〜……」
「?」
「………好き。格好良すぎ。バカ。」
「最後のは余計でしょ(笑)」
「ウジウジ言ってごめん。俺も一緒に行きたい。」
「はい。一緒に行きましょう?」
城崎と手を繋いで、パワースポットの小さなお寺へと足を運んだ。
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