502 / 1069

第502話

「城崎のバカ!」 「許してよ、先輩。」 「やだ!」 12時に旅館を出た。 頬を膨らます俺を、城崎が宥める。 だって城崎ってば、酷いんだ。 「でもまさか本気で焦ってたとは思わなかったんですよ。」 「普通チェックアウト10時半って教えられてたら焦るだろ!!」 「この俺がそんなバカなことすると思います?ちゃんと延長してましたよ。事前に。」 「だから、それを俺にも共有しろ!!」 10時半の予定だったチェックアウトを、チェックインの時に時間変更していたらしい。 なんで教えてくれなかったかと聞いても、「俺が先輩の裸を他の人間に見せるわけないんだから、時間過ぎてもシてるってことはそういうことでしょ。」と言われる。 要約すると、「俺の性格的に考えればわかるでしょ。」と言いたいらしい。 冷静になれば考えつくかもしれないけど、焦った頭でそんなの分かるわけないじゃん。 「でも流されちゃう先輩可愛かったなぁ。」 「はぁ?!」 「チェックアウト10時半って思ってたのに、結局俺に付き合ってくれたでしょ?」 「嫌って言った!」 「口だけね?あー、本当かわいい。好き。」 周りに人がいないのをいいことに、城崎は俺の頬にキスしてくる。 もう…。仕方ねぇな……。 「ていうか、俺が怒ってる理由それだけじゃねぇからな。」 「え?他にもあるんですか?何ですか?」 「風呂上がりのビール……、飲んでない。」 「ああ。」 「ああ、じゃねぇ!楽しみにしてたのに!」 チェックアウトの時に冷蔵庫に残っている瓶ビールを見て、さっき落ち込んだ。 あれだけ楽しみにしてたのに、流されて忘れていた自分にも…。 「逆にあのままエッチ止めてよかったの?」 「…いや、それは……」 「無理でしょ?まぁお風呂上がりのビールは帰ってから楽しみましょ?」 瓶ビールの入った袋を見せながら、城崎は笑顔でそう言った。 「ちなみに怒ってること、まだあるからな…。」 「え、まだあるんですか?」 「………チェックアウト遅いせいで行けないじゃん…。」 「どこに?」 「………パワースポット。」 昨日おじさんに教えてもらった恋のパワースポット。 明日行こうって言ってたくせに、忘れたのかよ…。 「今向かってますけど。」 「は?!無理だろ!」 「なんでですか?」 「もう観光客いるかもじゃん!SNSで人気なんだぞ?朝早くとかに行かないと人居るだろ…。」 「居たらダメなの?」 「居たら…、男同士で行ったら見られるじゃん…。」 なんで城崎はそんな堂々としてんの? 意味わかんねぇ…。 「先輩、まだ俺とそういうとこ行くの抵抗ある?」 「抵抗あるんじゃなくて…。何回も言ってるけど、城崎が変な目で見られんのが嫌なの。」 「じゃあ何度でも返しますけど、俺はそんなの気にしないし、先輩が嫌じゃないなら、普通に男女が行くようなデートスポットとかも行きたいです。」 「でも…」 「先輩と一緒にいろんなところ行きたい。たくさん思い出作りたい。先輩に男同士なんて気にせずに楽しんでほしい。俺は周りにどう思われても平気です。」 もう、何なの……? 何でそういうこと簡単に言ってのけんの? 「うぅ〜……」 「?」 「………好き。格好良すぎ。バカ。」 「最後のは余計でしょ(笑)」 「ウジウジ言ってごめん。俺も一緒に行きたい。」 「はい。一緒に行きましょう?」 城崎と手を繋いで、パワースポットの小さなお寺へと足を運んだ。

ともだちにシェアしよう!