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第504話

今日のメインは下灘。 松山駅から電車で1時間、電車の本数も少ない無人駅だ。 なんせ風景が綺麗で、海も眺められる愛媛では人気の観光地だ。 ガタンゴトンと心地良い電車の揺れを感じながら、城崎の肩に頭を置いてうたた寝する。 城崎は俺の反対側の肩を抱き寄せて、俺の頭に顔を乗せて寝てるみたいだ。 側から見たらどこぞのバカップルだと思うかもしれないが、もう気にしないことにした。 『まもなく、下灘〜。下灘〜。』 車内アナウンスが流れ、目を覚ます。 下灘駅で車内にいたほとんどの人が下車し、電車は行ってしまった。 「何もねぇな…。」 「はい。でも、すごく綺麗ですね。」 「うん。」 観光客がいるから賑わっているが、人がいなかったら別世界みたいな空間なんだろうな。 駅の近くには観光客に向けてか、キャンピングカーがみかんジュースの移動販売をしている。 他にも地元の特産品みたいなのを売りに、駅の近くまで出てきているお年寄りもちらほら。 駅から少し歩くと、踏切の近くに菜の花がたくさん咲いていて、それがまた綺麗だ。 それに空気も美味しい。 「もう少し歩いたら、有名な観光スポットがありますよ。」 「どんなとこ?」 「海に続く線路。見に行きますか?」 「行く!」 城崎と手を繋ぎ、歩いた先に浜辺へ降りる階段があった。 上から見渡すと、確かにそこに海に続く線路があった。 水は澄んでいて、線路がよく見える。 「みんな写真撮るのに並んでるんだな。」 「俺も先輩のこと撮りたい。」 「えー…?」 城崎が期待した顔で一眼レフを構えるから、仕方なく被写体になることにした。 多分この旅行で知らないうちに撮られてると思うけど。 順番が回ってきて、でも写真を撮られ慣れていない俺は、線路の上に立ってどうすればいいかわからず城崎に助けを求める。 城崎に指示された通りにポージングすると、周りからきゃあきゃあ黄色い声が聞こえて、少し照れ臭かった。 「城崎も撮ってやるよ。」 「俺はいいですよ。」 「いいから!俺が欲しいの。」 城崎からカメラを奪い、線路の方へ体を押す。 「格好良い城崎が見たい。周りの人たちに、俺の彼氏はこんなに格好良いんだぞって自慢したい。」 「ん。じゃあ気合い入れます。」 城崎は最初嫌そうな顔をしていたが、俺が耳打ちすると雰囲気が変わった。 スッと伸びる長い脚、風になびく髪、細身だけど男らしい綺麗なライン、雰囲気までも。 線路に立ち、水平線を見つめる城崎は、何だか一つの作品を見ているかのように美しかった。 カメラを構えて、ボーッと見つめていると、城崎が振り返って笑う。 俺は無意識にシャッターを切っていた。

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