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第506話

「今の俺じゃ不満ですか?」 「は?めちゃくちゃ満足してるけど。俺には勿体無いくらい。」 「じゃあ過去のことはいいじゃないですか…。」 何を言い出すかと思えば。 不満だったら、男となんて付き合ってないっての。 「それとこれとは別。城崎だって、もし俺の幼少期の写真みたい?って聞かれたら見たいでしょ。」 「見たいです。」 「そういうこと。」 例えが秀逸すぎて、城崎も納得してくれた。 「幼少期の城崎の写真も見たいなぁ。絶対天使だろ。」 「それはこっちのセリフです。小さい頃の先輩なんて絶対可愛いじゃないですか。」 「んなことねーよ。」 話が盛り上がってるうちに、下灘駅が見えてきた。 サンセットが近付いてきて、観光客が集まっている。 「うわぁっ!見ろよ、城崎!すげぇ…!」 水平線に沈んでいく夕陽。 海がオレンジ色にキラキラ輝き、少しずつ辺りが暗くなっていく。 「綺麗…。」 俺はぼーっと沈んでいく夕陽を見つめていた。 グイッと後ろから腕を引かれ、城崎の胸の中に収まる。 顔を上げると、城崎の目に夕陽が反射していた。 それに、お揃いのシルバーネックレスもオレンジ色に輝いていた。 「本当に綺麗ですね…。」 「おまえこそ……」 「え?」 「城崎も綺麗…。」 そう伝えると、城崎はきょとんとした顔をして、そして吹き出すように笑った。 「俺?……ふっ、あははっ…、先輩の方が綺麗だよ?」 「わっ、ちょ…!擽ったい…!」 「キスしていい?」 「……うん。」 周りの観光客はみんな駅に行ってしまったから、駅から少し離れた俺たちの周りには誰もいない。 城崎の綺麗な顔がゆっくりと近付き、鼻先が触れる。 唇が触れるか触れないかの距離で見つめられ、緊張で固まっていると、城崎はくすくす笑う。 「可愛い。」 「うるさぃ…」 「先輩の全部が愛おしいです。」 頬を両手で包まれ、優しく唇が重なった。 あぁ、なんだか泣きそうだ。 カシャ…… 不意に鳴ったカメラのシャッター音に、俺の涙は驚きで引っ込んだ。

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