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第507話

撮られた…? 固まっていると、城崎が俺を庇うように前に立った。 「誰ですか…?」 城崎の声はいつもより低く、表情からも警戒心が読み取れる。 俺たちに一眼レフを向けていた男性。 カメラを下ろした時、俺と城崎は驚いて動きを止めた。 「久しぶりだね。」 「「山上さん…っ?!」」 俺たちを撮っていたのは、去年の夏、向日葵畑で出会ったカメラマンの山上さんだった。 なんでこんなところに…?と思った俺の疑問は、すぐに山上さんの口から語られた。 「下灘の景色、綺麗だろう?毎年2回は写真を撮りに来てるんだよ。」 「すっごい偶然…」 「本当にね。私もびっくりしたよ。素敵な被写体になるカップルがいるなぁと思ったら、君達なんだもんなぁ。」 山上さんは以前も俺たちのことを素敵なカップルだと、いい被写体だと言ってくれた。 お世辞じゃなかったって、思ってもいいのかな? 赤の他人だとしても、俺と城崎の関係を認めてもらえるのは嬉しい。 城崎は山上さんのカメラを覗きながら訊ねた。 「いいの撮ってくれましたか?」 「うん。今回は私のカメラだけどね。どこかに見せたりする気はないけど、気になるならデータ君達に渡そうか?」 「いえ、山上さんなら信頼できるのでお任せします。」 「ふふ。嬉しいこと言ってくれるね?あぁ、そうだ。せっかくだから、このデータもあげたいし、どちらかのパソコンメールとか教えてもらってもいいかな?」 「是非!」 山上さんから手帳を預かり、アドレスを書こうとすると城崎に奪われた。 「俺のでもいいですか?」 「あぁ。どちらかに送れたらいいからね。」 「ありがとうございます。」 城崎、まさか山上さんにまで嫉妬してんのか…? いや、まさかな。うん…。 「にしても、君はガード固いね。70の私に対しても警戒してるのかい?」 「はは…。先輩可愛くて、いつ誰に狙われてもおかしくないんで。すみません。」 「ちょ?!は!??ごめんなさいっ、山上さん!こいつ誰に対してもこうなんで!!ほんっとにすみません!!」 気を悪くしたらどうすんだと頭を下げると、山上さんはケラケラと笑っていた。 「あはは!いやぁ、本当に好きなんだね。ふふっ、愛されてるんだね、君は。」 「いや…、もう本当…、すみません……。」 「いいんだよ。それじゃ、日も沈んじゃったことだし、そろそろ電車が来るから帰りなさい。」 「山上さんは?」 「私はあと一泊。明日もここで撮影するから、民泊に泊まるんだよ。」 「そうなんですね。少しのお時間でしたが、ありがとうございました。また会えること、楽しみにしてます。」 「こちらこそ。メールもできるんだし、結婚式は必ず呼んでくれよ?」 俺と城崎は山上さんに頭を下げ、下灘駅に向かった。 本当、いつどこで誰と会うか分からないものだな…。 偶然すぎる出会いになんだか現実味のないまま、松山市へと戻った。

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