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第521話

気づけば朝。 ついに今日はバレンタインだ。 だからと言って休みなわけもなく、スーツに着替えて城崎とニュースを見ながら朝ごはん。 『皆さん、おはようございます。今日はバレンタインですね。』 いつ言おうかとそわそわしていると、まさかのニュースキャスターに先を越された。 城崎の反応が気になって、チラッと横を見ると目が合った。 「先輩。」 「は、はいっ!」 「そろそろ行かないと、遅れちゃいますね。」 「………おう。」 バレンタインのこと言われるのかと思ってドキッとしたのに、城崎はバレンタインに関して完全スルー。 話題にすら触れなかった。 え、えぇ…? 城崎って、恋人のイベント事とか便乗するタイプじゃないの? だって、ハロウィンもクリスマスも…。 もしかして、バレンタインに何かトラウマあるとか…? 「し、城崎…」 「どうしました?」 「いや…、何でもない……。」 てっきりチョコを強請られるものだと思ってたくらいだったから、拍子抜けというかなんというか…。 結局バレンタインのことを切り出せないまま、玄関でキスをして、家を出る。 途中コンビニに寄ったりしたけど、どこもバレンタインフェアをやっていて、今日がバレンタインであることは城崎も絶対に気づいているはずだ。 「おはようございます。」 「あー!モテ男が来た〜!」 「??」 営業部に着くなり、上司らが城崎を指差した。 俺が首を傾げると、みんな城崎のデスクを指す。 城崎のデスクには、今にも崩れそうなプレゼントの山が積まれていた。 「何これ…。」 「望月くん去年見てないの?」 「去年の今頃、望月は出張行ってたから知らないんだろ。」 「あー、そうだっけ?」 周りが話している声が右から左へ通り過ぎて行く。 このプレゼント、全部チョコ…? 城崎、モテすぎじゃね……? 「皆さん、お好きなのどうぞ。」 「うっわ!辛辣!!女の子可哀想〜!」 「だって名前書いてないし。」 「名前書いてたら、去年城崎返しに配ってたろ。泣いてる女の子いっぱいいたって聞いたぞ〜?」 「好きでもない人から受け取りませんよ。それに、名前わかって受け取ってたら、ホワイトデー面倒じゃないですか。」 「わー……、キッツぅ……」 あの城崎が、周りから嫌悪の目で見られている。 城崎……、やっぱりチョコ嫌いなのかな……。 俺のも受け取ってくれないかもしれない……。 「先輩もどうぞ。」 「え……。」 城崎はチョコの山の中から、一番高そうな包装の物を選んで俺に手渡した。

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