524 / 1069
第524話
定時で終わり、城崎と二人で家に帰る。
あれだけチョコを渡されていたにも関わらず、城崎の手荷物は少ない。
「一つも受け取らなかったのか?」
「だからそう言ったじゃないですか。全部きちんとお断りしましたよ。」
「机に置いてた匿名のやつは?」
「お子さんいる人に配りました。」
城崎は当たり前でしょと言わんばかりの態度。
嬉しい。
俺のチョコなら受け取ってくれる…よな?
「ただいま。」
一緒に帰ってきたのに、家のドアを閉めた瞬間、城崎は「ただいま」と言いながら嬉しそうに俺にキスをする。
可愛い…。
「おかえり。」
「今からご飯作るから、待っててね。」
俺の髪を一房手にすくってキスをする。
キッチンに行こうとする城崎の腕を、グイッと引いた。
このまま冷蔵庫開けたら、多分バレる。
ここまで隠したなら、気付かれるんじゃなくて俺から渡したい。
「何?」
「ちょっと待って。」
「うん?」
「渡したいものがある。」
城崎をソファに座らせ、冷蔵庫から昨日作ったチョコを取り出す。
グラスに作ったチョコムース。
割とオシャレにできたのではないだろうか。
「城崎、好きだよ。受け取ってくれるか…?」
「…………」
チョコを渡すと、城崎は口をポカンとあけて固まった。
数えてみたけど、10秒は動かなかった。
もしかしてダメだったのかと差し出した手を引っ込めようとすると、グラスごと手を掴まれた。
「夢……?」
「へ…?いや、現実だけど…。」
「抓って……、痛い痛い痛い。先輩、痛い。」
「ふはっ…!」
言われるままに頬を抓ると、城崎は顔を顰 めながら涙をためる。
自分で抓ってって言ったくせに、めちゃくちゃ痛がるから思わず笑ってしまった。
「やべー…。嬉しい……。用意してくれてるなんて思ってなかった……。」
「昨日準備したんだよ。」
「食べていいですか?」
「うん。初めて作ったから、もしかしたら味おかしいかもしんないけど…。一応味見はしたから。」
城崎は俺からチョコムースの入ったグラスとスプーンを受け取り、目をキラキラさせながらムースを掬って口に運ぶ。
反応が見れるまでドキドキしたけど、城崎の口元が綻んだのを見て安心した。
「今まで食べたチョコの中で一番美味しいです。」
「いいって…、そういうお世辞…。」
「本当ですよ?本当に美味しい。これって俺のためにビターチョコにしてくれたんですか?洋酒も効いてて美味しい。」
「うん。甘いのそんなに得意じゃないだろ?」
「はい。あー…、すっごく幸せです。」
「先輩も食べてみて。」と、ムースを掬ったスプーンを差し出され、口を開ける。
城崎に食べさせてもらったからか、味見した時より何倍も美味しく感じた。
ともだちにシェアしよう!

