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第529話

目まぐるしい日々が過ぎ、3月も半ばに差し掛かった。 昨日は日曜日で、城崎と家でイチャイチャしながら映画鑑賞をした。 毎日20時すぎるくらい遅く帰ってきてるのに、今週はさらに忙しくなるらしい。 先に寝ててと言われたけど、どれくらい遅くなるんだろうか。 「望月〜、ちょっと。」 「はい。」 部長に呼び出されて、デスクに向かう。 何かやらかしたかなと不安に思っていると、部長はにこりと笑った。 「おめでとう。4月から主任に昇進だ。」 「え?」 「日頃の行いや部下の指導、あとは業績など諸々踏まえた結果、上と相談して、来年度から望月に主任を任せることになった。」 「私が…、ですか…?」 「あぁ。あと4月から新人の他に、横浜支部から異動してくる社員がいるんだ。有望株だから経験を積むって意味での異動だ。歳も近いから望月に指導係を任せようと思ってる。」 「分かりました。」 「期待してるぞ、望月。」 部長は俺の肩を叩いて、会議室へ行ってしまった。 俺と部長の話を聞いていた何人かが駆けつけてくる。 「おめでとう!望月くんっ!」 「すげーじゃん、綾人!」 「望月さんが主任だったらなんか安心します!」 涼真やちゅんちゅん、久米さん、他の同僚も聞きつけて寄ってくる。 囲まれて褒められて、悪い気はしないけど、なんだか照れ臭かった。 「主任かぁ…。」 「出世コースだな、綾人。」 「城崎、喜んでくれるかな?」 「喜んでくれるだろ。恋人の昇進だぞ?」 「だって、今より忙しくなるかもだし…。」 仕事内容が大幅に変わる。 メンバー業務からリーダー業務に変わるから、慣れないうちは残業ばかりになりそうな気がする。 「今の主任も定時でさっさと帰ってるし、慣れだろ。」 「そっか。ならいいんだけど…。」 「城崎と同棲してから毎日一緒に帰ってるもんな。」 「うん。今まではお互いメンバーだったから、残務があってももらってくれてたけど、リーダー業務手伝ってもらうわけにはいかないからな。」 「まぁ、そんときはそんときで先に帰ってもらって、夕飯でも作ってもらえばいいじゃん?」 涼真にそう言われて、少しだけ不安が和らぐ。 城崎はどんな反応するんだろう。 早く教えたい気もするし、直接伝えて一緒に喜んで欲しい気もする。 スマホと睨めっこしていると、城崎からメッセージを受信した。 『帰りは日を跨ぎそうです。きちんと戸締まりして、先に寝ててください。』 忙しくなるって言ってたもんな…。 忙しくなると言った初日に日を跨ぐなんて、もしかしてこの一週間、会えないんじゃないかと不安になる。 『わかった。無理はするなよ。』 返事をしてスマホをポケットに入れる。 はぁ…。 「会いたい……。」 俺の独り言は、誰にも聞かれずに空気に消えた。

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