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第542話
仕事が終わり、初めて一人でAquaに立ち寄る。
「いらっしゃ〜い。あら、綾ちゃん!」
「麗子ママ、お久しぶりです。」
「クリスマス以来ね〜♡スーツ姿で来るのは初めて来た時以来じゃないかしら?♡」
「そうだっけ?」
カウンターに着くと、メニュー表を渡される。
相変わらず店内はお洒落で、雰囲気がいい。
「とりあえず生一つ。あと麗子ママおすすめのおつまみ食べたいです。」
「あら?今日は飲んでいいの?」
「あー…、ダメかな?聞いてみる。」
スマホを開き、城崎の連絡先をタップする。
いつも通り、ワンコールで城崎は出てくれた。
『先輩?何かありましたか?』
「ごめんな、急にかけて。今大丈夫?」
『はい。いいですよ。』
「今日飲んでもいい?」
『………まぁ、俺が迎えにいくからいいですけど。ほどほどに、ですよ?』
「わかった。」
『ちゃんと確認するの偉すぎです。先輩、成長しましたね。』
「だろ〜?じゃあそれだけ。ありがと。」
『あ。先輩、待って。麗子ママにちょっとだけ変わって?』
俺は麗子ママにスマホを渡す。
麗子ママは二言くらい返事して通話を切った。
「なんて言ってたの?」
「綾ちゃんのこと見張っててって言われたわ♡愛されてるわね♡」
「別に俺みたいなのナンパしてくる奴いないでしょ。」
「あら?ここはゲイバーなのよ?油断しちゃだめよ、綾ちゃん!」
「はーい。」
適当に返事して、キンッキンに冷えた生ビールを煽る。
仕事終わりのビール美味すぎ。
そしてお洒落に盛られたおつまみも、美味しすぎてすぐになくなりそうだ。
何杯かビールを飲んで、城崎との思い出のスクリュードライバーも頼んでみる。
「あ…。この味だ。」
俺のスクリュードライバーの思い出はAquaの味なので、とても懐かしく感じた。
まだ城崎と付き合ってない頃の俺と城崎が、鮮明に脳裏に思い浮かんだ。
たった一年しか経ってないのに、この一年間が濃すぎてすごく感慨深くなる。
あぁ、城崎と会いたいなぁ。
城崎がいる時に飲めばよかった。
少し眠くなってきて、俺はカウンターに突っ伏したら、隣に誰かが座った。
「おにーさん、今一人?」
「お断りれす…。」
「ぶはっ!めちゃくちゃ酔ってるじゃん!大丈夫、お兄さんネコでしょ?俺もネコだから。今約束してる人待ってるだけ!暇だからお話しない?」
声のする方にくるりと首を回すと、俺の隣に座っているのは可愛らしくて若い男の子だった。
「ネコ…?」
「そー。挿れられる方のこと、わかる?」
「ん…。気持ちぃ。」
「そーそー。やっぱりネコだ?見た目でわかるもんだね〜。」
男の子は同士を見つけたと、子どもみたいに足をジタバタして嬉しそうにしていた。
「麗子ママ、このおにーさんと俺にウイスキーショットでちょーだい。」
「ダメよ。あんたはいいけど、この子はダメ。」
「え〜。」
男の子はぷーっと頬を膨らませて拗ねた。
「らいじょーぶ…。れーこママぁ、俺にもちょーらい…。」
「ちょ…、綾ちゃん飲み過ぎじゃ……。」
「しろしゃき迎えにくるからぁ…、いいの…。」
「もう…。知らないわよぉ〜?」
麗子ママは困った顔をしながら、俺と隣の子にウイスキーを出した。
そして店内の電話が鳴り、麗子ママは裏の方へ行ってしまった。
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