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第543話

見ず知らずの男の子と二人きりになる。 「ねぇねぇ、おにーさん、知ってる?」 「なにを…?」 男の子は目を輝かせながら話し始めた。 「この店の客で有名だったタチの男の人がいるんだけどね、顔は国宝級にイケメンだし、すっげーーエッチ上手くて、しかも巨根でおまけに形もいいの!すごくない?」 「うん……?」 「なのにさ、絶対恋人は作らないで有名なんだよ。」 そんな人いるんだぁ…。 でも、俺の自慢の恋人、城崎だって負けなくない? 今彼が言ってた条件、オールクリアだもん。 「俺の恋人もねぇ、すごいの。」 「へぇ〜!でも絶対その人には敵わないよ?俺、一回だけしかその人とシたことないんだよねぇ。だから会えたらもう一回だけ…って思うんだけど、最近会えなくてさ〜。」 「そーなの…?」 「おにーさんもね、絶対経験しといた方がいいよ!」 「俺はいいやぁ…。」 ウイスキーを飲みながら城崎が来るのを待つ。 そろそろ終わってる時間だと思うんだけどなぁ……。 机に突っ伏して、ゴロンと顔を横に向けると、裏から麗子ママが帰ってきた。 時刻はもう22時を指しそうだ。 カランコロン…と店の扉が開く音が聞こえ、目線をそちらに移動させる。 そこには待ち侘びていた俺の恋人が立っていた。 「しろしゃき…、わっ!」 「危ない。もう…、気をつけてくださいよ?」 駆け寄ろうとすると足元がおぼつかなくて転けそうになり、城崎が抱き止めてくれた。 「お待たせしました。…って、先輩、こんなに飲んだの?」 「らってぇ……、飲んれいいよって言ったぁ…。」 「もー…。麗子ママ、ちゃんと見ててくれたんだろうな…?」 「見てたわよ。ネコちゃん以外近くに寄せてないでしょ?ちなみにお酒も止めたんだからね?」 城崎は俺の周りをぐるっと見渡し、そして明らかに嫌そうな顔をした。 何を見てそんな顔をしてるのかと気になって、城崎に抱きついたまま覗き込むと、さっき話してた男の子だった。 「夏……?」 「………」 「え、待って。どういうこと?!夏ってここ来るの辞めたんじゃないの?もしかして、また相手探してる?!俺立候補したい!!」 「いや、募集してないから。」 「今日はお兄さんと約束済み??」 「違うけど。」 「じゃあいいじゃん!!近くにいいラブホ見つけたんだよね!久々にシたい!」 「無理。」 「なんで?!お兄さんと夏って、どういう関係?」 知り合い…? 俺の方が聞きたい。 君と城崎ってどういう関係…? 「恋人。約束じゃないって言ったのは、お前が考えてるみたいな一夜きりの約束とかそういうのじゃないってこと。俺もうこの人しか考えられないから、諦めて。」 「えぇっ?!嘘!?本当に?!」 男の子は目を見開いてびっくりしてる。 これだけ断られても城崎が"恋人“と言うまで、その発想に至りもしなかったようだ。 っていうか…、今の話の流れ的に、もしかしてさっき男の子が話してた有名な男の人って、城崎のこと……? じゃあ、この子は城崎とシたことあるんだ……。 なんかやだ……。やだな…。 俺は城崎のシャツをぎゅっと握った。

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