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第544話
「先輩…?」
城崎は心配そうに俺の顔を覗き込む。
ダメだ……。泣いちゃダメ。
城崎だって、過去の人くらいいる。
俺だって今まで何人も付き合ってきたし、城崎だってそうだ。
だから、泣いて困らせるなんてダメだ。
「……っ」
「先輩…、泣かないで。」
「…ズッ……、ごめん……、泣くつもりなかったのに…。」
心がモヤモヤして、ズキズキして、城崎の申し訳なさそうな顔見たら、一気に涙が溢れ出した。
葉月くんがセフレの名前をいっぱい言ってた時ですら、すごくチクチクして悲しくて泣いてしまったのに、いざ目の当たりにして胸が痛くならないわけがない。
やだ。知りたくなかった。
不安と嫉妬、負の感情が一気に押し寄せてくる。
「先輩、俺が好きなのは先輩だけだから。」
「…分かってる……、ごめん…。」
「嫌でしたよね、ごめんなさい。」
「ふっ…、んん……♡」
力強く抱きしめられて、唇が重なる。
城崎に全部委ねた。
城崎は俺の涙が止まるまでキスを続け、俺が背中を軽く叩くと、ゆっくりと唇が離れた。
俺と城崎の間を銀糸が伝う。
「帰ろう、先輩。」
「うん…。」
「麗子ママ、今度払うから、今日はつけといて。」
「わかったわ。」
城崎の手を取り、出口へ向かう。
城崎がドアノブに手をかけた時、グイッと城崎が後ろに引っ張られた。
「嘘だよね?!あんなに恋人は作らないって言ってたじゃん!」
「本当だよ。見たらわかるだろ?」
「納得できない!なんで?!あんなにお願いしても、俺にはキスしてくんなかった!!」
「この人に本気だからだよ。もう二度と話しかけないで。先輩のこと、不安にさせたくない。」
城崎は冷たくあしらって、俺の手を引いて店を出た。
夜の外はまだ寒くて、風に当たると少し酔いは覚めたけど、寒いのを口実にぴったりと城崎の腕にひっついた。
「顔は国宝級にイケメン……」
「え?」
「すっげーエッチ上手くて、しかも巨根でおまけに形もいい…」
「??」
「さっきの子が、そう言ってた。」
小さな声でそう呟くと、城崎は苦笑した。
「あの子、可愛い顔してた…。」
「そう?」
「小柄だし、甘え上手だし…。城崎メロメロだったんじゃないの…。」
「んー、そもそも顔見てもピンと来なかったし、覚えてない。」
「サイテー。」
顔も忘れるくらいの人とエッチしてたってことじゃん。
ぷーっと頬を膨らませると、城崎が膨らんだ頬を指で潰す。
「覚えててほしかった?」
「……やだ。」
「俺、溜まったら自慰じゃなくて、適当に相手探してたんです…。先輩と出会ってから、ずっと昔のこと後悔してた。いつか先輩のこと傷つけちゃうかもって、怖かった。」
「うん…。」
「嫌な思いさせてごめんなさい。」
「もういいよ。俺が好きなのは今の城崎だもん…。」
「先輩、大好き。愛してるよ。」
人目につかないネオン街の路地裏に隠れて、全部忘れるくらい何度も唇を重ねた。
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