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第556話

「どこ行きたいですか?」 「どうしよっか。」 15時半。 春がきて、昼が少し長くなったから、太陽はまだ沈む様子はない。 「遊園地もありますし、プラネタリウムもありますよ。何か見たいのがあれば映画館でもいいですし。」 「うん。せっかく横浜まで来たしなぁ。」 周辺地図と睨めっこする。 城崎は地図を覗き込みながら、耳元で囁いた。 「ちなみに俺は二人きりになれるとこ、行きたいですけどね…?」 「っ…!!!?」 びっくりして振り向くと、冗談じゃなかったらしく、少し熱っぽい視線で見つめられていた。 二人きりになれるとこって、そういうこと…だよな? 「ま、まだ昼だぞっ…?!」 「それって、夜だったらいいってことですか?」 「…っ」 俺もしかして遠回しに夜行こうって誘ってた?! いや、いいんだけど…。 むしろ行きたい…かも…だけど。 「冗談です、冗談。じゃあ間をとって観覧車にしましょう。」 「観覧車…?」 「二人っきりになれるし、そういう雰囲気にはならないでしょ?俺、そろそろ先輩にチューしたい。」 「さっきしたじゃん…。てか、観覧車って丸見えじゃん。」 「あんなの足りないですよ。ほら、てっぺんなら見えないでしょ?」 「…………」 「はい決まり。行きましょう♪」 城崎は地図を閉じて鞄にしまい、俺の手を引いた。 一際目を引く、大きくて綺麗な観覧車。 近づくにつれ、その大きさが目の当たりになる。 「でけぇ…。」 「大きいですねぇ。一周15分くらいだって。」 「長ぇな。」 「先輩は何色に乗りたいですか?」 「何色でも。」 「透明?」 「普通のでいい!」 反射的に大きな声で返事した。 だって透明なんかあると思わねぇじゃん。 城崎は「はいはい。」と言いながら、スタッフにチケットを2枚渡して、ちょうど来た赤色のゴンドラに乗り込んだ。 「ほら、先輩行きますよ。」 「待って…!」 伸ばされた手をとって、ゴンドラに乗り込む。 外から施錠されると、もうそこは二人だけの空間になった。 「やっと二人きりになれましたね〜。」 「車の中ずっと二人だったろ。」 「早く頂上着かないかな〜?先輩、ベロチューですよ?約束ね?」 「わかったから…」 舌を見せながら無邪気に笑う城崎を見てると、愛おしさと照れ臭さと恥ずかしさが一気に襲ってきて、顔が熱くなった。

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