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第557話

ゴンドラはゆっくりと上昇していく。 地上を歩いてる人達が小さくなっていく。 「城崎、見て。」 「どれ?」 俺の背中から覆いかぶさるように、城崎が外を覗く。 ほぼバックハグじゃん…。 「城崎…、見られる…。」 「今ちょうど四分の一くらいのところでしょ。横にゴンドラないから見えないって。」 「本当?」 「本当。逆に先輩は他の客見えてるの?」 「見えない…けど…。」 「でしょ?ちゃんと死角のときだけイチャつくから大丈夫。」 城崎は満足気に俺に頬を擦り寄せる。 今ならキスしても平気…? じっと唇を見つめていると、城崎はニヤッと笑って無意識に自分の唇に触れていた俺の指を捕まえる。 「キスして欲しいの?」 「えっ?!あ…、えっと…!」 「5秒だけ。」 「んぅ…」 ぴったり5秒。 城崎の唇が離れてすぐ、ひとつ前を進んでいるゴンドラが視界に入った。 「すごい。分かってたのか?」 「大体それくらいかなって。あ、先輩見て?あそこさっき行った中華街ですよ。」 「本当だ〜。てか海綺麗だなぁ。」 「夜だったら夜景が最高に綺麗なんでしょうね。」 「たしかに。夜綺麗だろうなぁ。」 「今夜は夜景の見えるレストラン予約してるので、そこでゆっくり堪能しましょう。」 いつの間に…。 城崎、デートや旅行に関して本当に抜かりがない。 スマート過ぎて、逆に気持ち悪いくらいだ。 「さっき言ってた…、その……」 「?」 「ふた…、二人きりに…なれる場所って……」 もしかしてそれも計画のうちだったのか? そう思って聞こうとしたのに、吃ってしまった。 「あぁ、ホテル?もちろん行きますよ。先輩がそういう気分になるか予想つかなかったので、予約はしてないですけど。」 「…っ」 「期待してくれてたの?可愛い。」 城崎はくすくす笑って、俺を愛でた。 期待してた。 たしかに期待してたけど、それがバレるのはやっぱり恥ずかしい。 てか、予想つかなかったって何だよ。 「俺、城崎のお誘い断ったことあったっけ…?」 「いや、一応明日仕事ですし、夜どれくらい遅くなるかもわからなかったので。」 「そっか…」 楽しすぎて明日が仕事だということをすっかり忘れていた。 完全に休みボケしている。 「あ。先輩、そろそろ頂上。俺の上乗って下さい♡」 「わぁっ!?」 城崎に腕を引かれ、城崎に跨る形で乗り掛かった。

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