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第560話
レストランディナーを終え、車に戻った。
エンジンを吹かせ、まもなく車が出発する。
音楽もかけず静かな車内。
俺の身体は期待して、少し強張っていた。
「先輩、喋らないの?」
「喋ったほうがいいか…?」
「どっちでも。俺はこういう空気も嫌いじゃないですよ。」
こういう空気って、どういう空気だよ?
顔が近付けば、今にもキスから全部始まりそうなこの緊張感か?
「城崎…、キスしたい……」
「うん。他には?」
「………触って欲しい…」
「触るだけでいいの?」
「………城崎でいっぱいにして…ほしぃ…」
「ふふっ。はー、早く夜景見て、ホテル行って先輩のこと抱きたい。」
暗いから周りの目も気にならなくて、信号で止まるたびに城崎に自分からキスを求める。
昼と違って積極的な俺に、城崎も心なしか機嫌が良い。
「着いた。先輩、見て。」
「うわ…。すげぇ…。」
「でしょ?」
「外でていい…?」
「もちろん。」
海沿いの工業地帯。
栄えた都市近辺のカラフルな光とは違う、工場照明の光。
工場ならではの金属の光沢や質感。
漂う水蒸気や、時々チラつく炎。
「めちゃくちゃ綺麗……。」
「感動してくれてよかった。どうしても、先輩と一緒に見たかったんです。」
「ありがとう…。」
こんなに綺麗なら、ずっと見ていられそうだ。
じっと夜景を見ていると、左手をぎゅっと握られて、反射的に城崎の方を見る。
「なんか夜景にまで嫉妬しそう。」
「んっ…、城崎……」
「好き…。先輩、愛してる…」
誰もいない静かな海沿いの倉庫街。
コンテナの陰に隠れて、城崎のキスに溺れる。
「んっ…、ん、ん…」
「可愛い。先輩、好き。大好き…」
「はっ…、ぁ、ん…、んぅ…」
「綺麗だよ、先輩…」
「あっ、ぁ、ああっ!イッ…!!」
ブルルッと体が震える。
ヤバい…。もう……。
「城崎…っ」
「あ…。ご、ごめんなさい!俺、こんなとこで…」
「………ホテル行きたぃ…。」
「…っ!我慢できますか…?」
城崎も切羽詰まった声をしていた。
俺は城崎の服を強く握りしめ、小さく何度も頷く。
ホテルに着くまでの車内はずっと無言で、俺は熱っぽい視線でずっと城崎のことを見つめていた。
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