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第571話

泣きじゃくったあと子どものように眠ってしまったちゅんちゅんを、主任がタクシーで送り届けることになった。 今日の主役が…って、みんなが送ると名乗り出たけど、結局主任が引き受けた。 「主任、本当にいいんですか?ちゅんちゅんくらい、俺たちが送りますよ?」 「いいんだよ。なんかこれだけ懐かれると、我が子みたいに見えてきたわ〜。」 「ぶはっ!大きいお子さんですね。」 「本当にな。」 眠りながらも主任の服を握って離さないちゅんちゅん。 マジで赤ちゃんだよ…。 ちゅんちゅんをタクシーに乗せ、ドアを閉めた。 「望月、頑張れよ。」 「はい。お疲れ様でした。」 「おう。つっても、もう明日から仕事なんだけどな。」 「ですね。明日から新年度かぁ。金曜日だし、どうせなら来週からの方がキリ良いですよね。」 「そうだな。まぁ、本番は来週からだと思って、明日は気楽にやれよ。」 「はい。主任も頑張ってください。」 「ん、じゃあな。」 窓が閉まり、タクシーは発車した。 明日からは主任は来ない。 これからは本当に俺が……。 「先輩なら大丈夫ですよ。」 「城崎…」 「なんていったって、俺がいますからね。どんなときでも支えますよ。」 城崎は不安な顔をする俺を見て励ましてくれた。 心強いな…。 なんかそれだけで大丈夫な気がしてきた。 「明日から来る新しい人、どんな人かなぁ。」 「まぁどんな人が来ても、関係ないですけどね。」 城崎の言葉に違和感を持つ。 ん…? 「あれ?俺言ってなかったっけ?」 「何を?」 「俺、明日から異動してくる奴の指導係なんだよ。」 「………は?」 やっべ…。 主任に昇進することしか言ってなかったっけ? 見上げると、城崎はさっきまでの表情とは違って、ムスッとご機嫌斜めな顔をしていた。 「ご、ごめん!言い忘れてた!」 「なんで引き受けたんですか…。」 「断るのは無理だよ、さすがに。」 「俺がやります、指導係。」 「いや、失礼だろ。お前明日から3年目だろ?向こうは社会人歴は城崎より上だし、俺と歳近いって言ってたし。」 「…………。」 「言ってなかったのは悪かったけど、仕事だから割り切って?頼むよ。」 「………わかりました。」 「ん、ありがと。」 機嫌良くはならなかったけど、一応納得はしてくれたらしい。 家に着くまで手を繋いで、家帰ってからも城崎は俺から離れようとしなかった。

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