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第573話
廊下からキャアキャアと黄色い声が聞こえる。
背ぇ高……。
俺より10cmほど大きいだろうか。
「みんな、今日から一緒に働く仲間だ。じゃあ、自己紹介をどうぞ。」
「はじめまして。本日より東京本部営業部へ配属となりました、蛇目 風雅 と申します。横浜支部マーケティング部で3年、営業部で4年勤めて参りました。この7年間で培った経験と知識を活かし、皆様のお力になれるよう精進して参りますので、ご指導ご鞭撻のほど、何卒よろしくお願い致します。」
入社8年目。
つまり、俺と涼真の一つ下の代らしい。
マーケティング部にも所属してたのか…、すごいな…。
「蛇目くんは横浜支部で3年連続トップセールス賞も取ってる凄腕セールスマンだぞ。みんな負けないように!」
強…。
そりゃ東京本部に異動してくるわけだ。
横浜支部も手放したくなかっただろうな…。
甘いルックスに加え、高身長。
話し方も丁寧で、清潔感もある。
同じ男として、すでに敗北感が……。
「部長、もう一ついいですか?」
「ん?いいぞ。どうした?」
蛇目はコホンッ…と咳払いして、にっこりと笑った。
「私、ゲイを公表してますので、皆様にも初めにお伝えしておきますね。」
「「え……?」」
場の雰囲気が一瞬凍りついた。
本人は全く気にしていなさそうだけど…。
「げ、ゲイって…」
「恋愛対象が男ということですね。」
「じゃ、蛇目くん、そういうことは…」
「部長、これが人間関係を円滑に進める私なりのやり方なんです。隠しているより、話した方が皆さんも分かりやすいでしょう?女性には全く興味がなく、お断りしてしまうことが多いので…。」
「そ、そうか。」
「では皆さん、よろしくお願い致します。」
みんな唖然としていたが、部長が手を叩いて時が進み始めた。
部長が蛇目を連れて、俺の方へ来る。
「蛇目くん、彼が君の指導係で主任の望月くんだ。」
「望月さん、よろしくお願いします。」
「よ、よろしく…。主任の望月です。」
手を差し出され、俺も右手を出す。
両手でぎゅっと握り締められ、にこりと微笑まれた。
………やりにくい。
後ろから痛いほど視線を感じる…。
「じゃあ、さっそくここでの業務と物の位置、説明してもいいか?」
「はい。よろしくお願いします。」
城崎の突き刺さるような視線を感じながら、俺は蛇目に指導を始めた。
さすがに物分かりが良く、一度教えたことはすぐに覚えていく。
大抵質問あるか尋ねても何も聞き返されないことが多いのだが、蛇目は業務に必要なことや、俺が説明し忘れたことを的確に質問してきた。
こいつ、マジでできるな…。
昼休みの時間になった時、キリが良かったのでそのまま休憩に入ることにした。
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