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第575話

「あれ?城崎くんは?」 「あー…、何か用事あるみたいで…。」 「そっかぁ。残念。」 久米さんたちは談話室の四人掛けのテーブルで話していた。 蛇目以外は手作り弁当らしい。 「望月くん、今日はお弁当じゃないの?」 「はい。今日はちょっと朝バタついてて…。」 ビニール袋からおにぎりやパンを出していると、久米さんに尋ねられる。 久米さんは何度か弁当見てるからな…。 「主任はいつもお弁当なんですか?」 「そうそう。彼女がいつも張り切ってすっごい美味しそうなお弁当作ってくれてるんだよー!ね、望月くん?」 「まぁ…、はい。」 昨日飲み会だったし、寝たのちょっと遅かったから。 朝は城崎が結構ギリギリまで離してくれなかったし…。 「っていうか、望月くんが主任って言われてるの慣れなーい!よっ!望月主任っ!」 「ちょ…、からかわないでくださいよ。」 「だって面白いんだもーん。」 久米さんはけらけら笑って、俺を揶揄っていた。 その横で、蛇目がじっと俺のことを見つめているのに気づく。 「主任は皆さんに愛されてるんですね。」 「そ、そんなことないよ…。」 「皆さんとの関係性からも、主任が素敵なお人柄なんだなって伝わってきます。」 ストレートに褒められて、少し照れ臭くなる。 城崎に愛されてる自信はあるけど、職場のみんなに愛されてる自信なんてなかったから。 でも久米さんたちもニコニコ笑ってて、少なくともこの人たちは俺を好いてくれているのだと安心した。 「ていうか、分かったでしょ?蛇目くん。望月くんは彼女がいるからアタック禁止です!」 「えー?私結構諦め悪いんですよ。」 「何?何の話?」 「なんかねー、望月くん、蛇目くんの好みの顔なんだって〜。アタックしちゃおうかなって言うから、呼んじゃった!」 ま…、マジか……。 俺はどういう反応すれば…。 というか、久米さん分かってるのか? ゲイだから、好みってことは本気で俺のこと狙う可能性があるってこと…。 「残念だなぁ。恋人さんとは付き合って長いんですか?」 「えっと…、もうすぐ一年…かな…。」 「望月くん、もう同棲までしてるから!蛇目くんダメだよ!浮気もダメだし、そもそも私たちは望月くんが早く幸せになれるように応援してるんだから!」 「幸せって、結婚ってことですか?」 「うん!そう!」 「結婚が全てではないと、私は思いますけどね…。ね、主任?」 「え?あ、え、うん…。」 なんで俺に振った?? 蛇目の思考は本当分かりづらい。 ずっとニコニコしてて表情からは読めないし、まだ会って間もないから性格とかも分からないし…。 その後は取り止めのない話をして、いつの間にか午後の就業時刻になっていた。

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