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第576話

午後も引き続き、蛇目に部署案内だ。 城崎はいつの間にか帰ってきていて、仕事を再開していた。 午前中みたいにこちらを見るわけでもなく、だからといって仕事にも集中はできていなさそうな様子。 やっぱり選択を誤った気がする。 「城崎……」 「主任、去年の資料ってどこですか?」 声をかけようとすると、後ろから蛇目に声をかけられる。 あぁ、もう…。 「去年の資料なら、向こうの資料室にあるよ。」 「分からないので、一緒に来て頂いてもいいですか?」 「わかった。」 城崎に声をかけたい気持ちを抑え、蛇目を資料室に案内する。 去年のはまだ新しいから、手前の方に置いてたはず…。 あ、あった。 「蛇目、これでいいか?」 「ありがとうございます。あともう少し前のも見たくて…」 「奥に行くに連れて、古い資料あるから。探せそう?」 「あー…、ちょっとだけお話あるんですけど、いいですか?」 「ん?」 蛇目は後ろ手に資料室の鍵を閉めた。 鍵のかかる音にビクッと体が跳ねる。 こいつ、何かする気…? 「あー、そんな警戒しないでください。何もしないですよ。」 「じゃあ何で鍵閉めた?」 「人に聞かれちゃまずい話するからですよ。いいですよ、私は。鍵開けてても。」 「聞かれちゃまずい話って何…?」 心臓がバクバクしてる。 何もしないって言ってるけど、本当に何もしないのか…? もし手出されたら、城崎に合わせる顔がない。 いつでも反撃できるように心構えをしていると、蛇目は俺から距離を取ったまま話し始めた。 「さっき昼休憩に入ってすぐ、会議室にいらっしゃいましたよね?城崎くん…、でしたっけ?お二人で何の話されてたんですか?」 「仕事の話…だけど…?」 「ふーん?プライベートな話題じゃなくてですか?」 「え…?」 何でそんなこと聞いてくる? 仕事の話だろうが、プライベートな話だろうが、こいつに何の関係もなくないか…? 不思議に思っていたら、蛇目はいつの間にか間合いを詰めていて、俺の耳元で囁いた。 「城崎くんとお付き合いされてるんですよね?」 「…っ?!」 何で?! なんで会って数時間の蛇目に、そんなことわかるんだ? 混乱して、目が泳ぐ。 「何でって顔してますね?」 「だっ…、え、違…っ」 「ふふっ…、嘘つかなくてもいいですよ。横浜でデートされてる時、お会いしたこと覚えていませんか?」 「………あ!!!」 観覧車の後、トイレに行った時…。 あのとき男性とぶつかった。 ハンカチを拾ってくれた、あの男性…。 「思い出しました?」 「うっすらと…。」 「うっすらかぁ…。ショックです。私は覚えてましたよ。主任の顔、私の好みですし、彼も相当イケメンだったので。」 蛇目は表情変えず、ニコニコと微笑んでいた。

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