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第577話
やっぱり何考えてるか分からない。
「それ聞いて、俺にどうしてほしいんだよ…?」
こんなところに閉じ込めて聞いてくるってことは、何か交換条件とか…?
城崎と別れて、蛇目と付き合え…とか?
「どう…?いや、聞いただけですけど。」
「え?」
「同じ職場に同類がいる。その確認と、あと主任の恋人が城崎くんだっていう確認をしたかっただけです。」
「本当に?聞いただけ…?」
「はい。何かお願いしてもいいんですか?そうだなぁ…、じゃあ私ともデートしてくださいますか?」
「む、無理!!」
「でしょう?乗り気じゃない方とデートしても、こちらも面白くないですしね。」
蛇目は呆気なく引き下がった。
よかった…。
なんか無駄に心臓働かせた気がする…。
「みんなには付き合ってること伝えてないんだ。秘密にしてほしい…。」
「勿論です。久米さんも"彼女"っておっしゃってましたしね。"結婚"とか。そもそも私の自己紹介に乗ってこない時点で隠してることは明白でしたし。」
あ…。
なるほど。だからあの話の時、俺に振ってきたのか。
幸せと結婚がイコールかって話…。
俺の恋人が男だと知っていたから…。
「私と主任だけの秘密ですね♡」
「いや、涼真…、柳津と雀田は知ってる。」
「あら、そうなんですか?」
「でも職場で恋人の話題は出さないでほしい。」
「分かりました。皆さんには、私が主任がタイプだから狙ってるっていうスタンスのままいきますね。」
謎の提案。
と思ったけど、周りに俺と城崎が付き合ってると悟られないための作戦の一つなのかもしれない。
同じ同性愛者だからこその気遣い…とか?
「わかった。城崎には言っておく。」
「はい。よろしくお願いします。」
「じゃあ、俺は部署に戻るから。」
資料室から出ようとドアノブに手をかけると、蛇目が俺の肩に手を置いた。
「ちなみに、主任のこと好みなのは事実ですからね。」
「っ!」
「ふふっ。大丈夫。同意なく手を出したりはしませんよ。」
ビクッとして振り返ると、蛇目は俺の方からパッと手を離して、何もしないよと両手をひらひら振ってアピールした。
「私も後で城崎くんに挨拶してもいいですかね?」
「愛想悪いかもだけど、挨拶くらいしてやって。」
「あらら。私もしかして、既に警戒されてます?」
「会う前から警戒されてたよ。」
「それはそれは…。主任と浮気するには、一筋縄ではいかないですね。」
「浮気なんか絶対しねぇよ。」
俺は蛇目を置いて、一足先に資料室を出た。
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