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第578話

部署に戻ると、城崎がちらっとこっちを向いた。 とても不安げな瞳で見たくせに、すぐに目を逸らされた。 気になるくせに…。 「城崎」 「なんですか…?」 「ちょっと話があるから、出てこれるか?」 「はい。」 主任に昇進して、さっそく職権濫用。 城崎を呼び出して、誰もいない会議室に入る。 「昼は悪かった。」 「……いいですよ、別に。怒ってないです。」 「でも傷つけたろ?悪かった。」 本当は抱きしめたいけど、会社なので自重する。 城崎は俯いたまま、小さく頷いた。 「蛇目のことなんだけどな、あいつ俺たちが付き合ってること知ってた。」 「え?」 「一昨日のデートの時、見たんだって。ほら、俺トイレの後、人とぶつかっただろ?」 「あぁ。どこかで見た顔だと思ったら…。」 城崎は納得したらしい。 そういえばさっき、見たことある顔だって言ってたな。 「俺たちのことは内緒にしてくれるって。で、蛇目は周りには俺の顔が好みだから狙ってるっていう設定でいくらしい。」 「は?」 「実際久米さんには、もう言ってるみたいだし。あいつが言わなくても時期に広まる気がする。」 久米さんは恋バナ好きだからなぁ…。 少なくとも営業部女性社員にはあっという間に広まるだろうな…。 「それ冗談じゃなくて、本気なんじゃないですか?」 「んー、なんか好みは好みらしいんだけど、同意なしで手は出さないって言ってたし、あいつはあいつなりのポリシーがあるんじゃないかな。」 「胡散臭…。」 「まぁ、何も起こらないよ。俺も気をつける。」 「うん…。話してくれてありがとう、先輩…。」 いつ人が入ってくるか分からないから、城崎も俺を抱きしめようとした腕を渋々下ろした。 その代わり、見えないようにそっと手を握る。 会議室じゃなくて、いつものトイレとか、人気のないとこにしておけばよかった…。 「先輩、まだ蛇目さんのそばにいるんですか…?」 「うーん。しばらくは色々教えなきゃだから、一緒にいること多いんじゃないかなぁ。」 「さっきみたいに、俺の見えないところに二人で行かれると不安です…。」 「うん。気をつける。」 「向こうも事情知ってるなら、俺に頼めることは俺に頼んで?さっきみたいに資料探すくらいなら、俺でもできます。」 「うん。」 「約束してくれますか?」 「わかった。約束な。」 城崎と小指を絡め、ゆびきりげんまんした。 会議室から出ると、ちょうど蛇目が資料室から戻ってきたところだった。

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