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第579話

城崎は蛇目を見て、あからさまに嫌そうな顔をした。 「はじめまして、城崎くん。」 「どうも。」 にこりと微笑んで手を差し出す蛇目に対して、城崎は軽く頭を下げただけだった。 本当分かりやすいな、こいつ…。 「主任から話は聞きました?」 「先輩を狙ってる設定とかいうやつですか。」 「そうそう。まぁ設定じゃなくて、事実なんですけどね。」 そんな当たり前かのように、城崎を煽ること言わないでくれ…! 案の定、城崎は眉間に皺を寄せていた。 「これからは俺にできることは、手伝いますので。」 「それはそれは。よろしくお願いしますね。」 蛇目は城崎にニコッと微笑みかける。 城崎が今めちゃくちゃ圧かけてたの、気づいてる…よな? 本当掴みどころねーな…。 蛇目はデスクに戻る前に、思い出したように振り返って城崎に伝えた。 「あ、そうそう。チクバンするなら、おすすめのクリームありますよ。」 「「…………。」」 城崎の目がナイフみたいに鋭くなって、俺に突き刺さる。 俺は手と首を同時にぶんぶん横に振った。 見せてない。マジで見せてない。 「私も以前、パートナーに使ってたんですよ。割とお値段も手頃で、とってもピンクでぷりぷりの可愛い乳首になるのでオススメです♪」 「何でチクバンのこと、知ってるんですか…。」 「さっきチラッと見えちゃって。」 いや、だからこっち向くな! 目がガチで怖い。 「着てる!インナー着て……、っ!!」 「……………。」 「ごめん…。着るの忘れてた…。」 昨日は透け防止にインナーシャツを着ていた。 今日も着る予定だった。 着る予定だったんだけど、普段は着ないから、完全に忘れていた。 「先輩っ!!!」 「ご、ごめんって!」 「バカ!!先輩のバカ!!」 「悪かった!本当にごめんっ!」 「俺だけの先輩の乳首なのにぃ〜!!!」 「バカ!!声デカい…!!」 どんどん声が大きくなる城崎を、一旦会議室に押し込む。 なんてこと言い出すんだ、蛇目のやつ! 「大丈夫ですよ。主任ちゃんとスーツ着てるので、たまたま私が身長高くて見えてしまっただけですから。」 「先輩に近付くな!この蛇男(へびおとこ)!!」 「蛇男…?ふふっ、面白いですね、城崎くんは。」 蛇目は楽しそうに笑って、部署に戻っていった。 チラッと見えただけなら黙っておいてくれ…。 嗚呼…。 先が思いやられる……。 その後城崎はダッシュで社内のコンビニにインナーシャツを買いに行って、俺をトイレに閉じ込めて着替えさせた。 部署に戻った後は鋭い目つきでずっと監視されていた。 一方で蛇目はニコニコ笑いながら、こっちを睨む城崎を見て楽しんでいた。

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