593 / 1069

第593話

「お隣失礼します。」 俺の隣に座ったのは、あまりキャバ嬢っぽくない黒髪に大人しそうな顔の女の子。 胸はどうしても目がいくくらいデカい。 「あの…、私接客初めてで…。よろしくお願いします。」 「俺もこういうとこ初めてなんです。あまり得意じゃないので、普通にお喋りしませんか?」 「そうなんですか?よかったぁ…。」 俺の隣についた子は姫花(ひめか)ちゃんと言うらしい。 話を聞いていると、最近夜職を始めたらしく、今日やっと接客デビューにだったそうだ。 「望月さんは格好良くて、優しくて、若いのにお仕事もできてすごいんですね♡」 「いや…、そんなことないですよ。」 「私今日接客デビューするの、すっごく緊張してたんです。初めてのお客様が望月さんでよかった♡」 近い…。 これ匂いつかねぇかな…? 城崎より早く帰って、さっさと風呂入りたい。 女の子特有の甘い匂い。 城崎が気づかないはずがない。 「望月さんはお酒は飲まないんですかぁ?」 「得意じゃなくて…。すみません。」 本当は好きだけど。 部長が俺の席にもお酒入れてるから、必然的に姫花ちゃんが飲んでいる。 「ちょっと暑くなってきちゃった…♡」 「…っ!?」 姫花ちゃんは顔を手で仰ぎながら、俺にもたれかかってきた。 胸当たってるって…。 腕に当たる柔らかい感触。 左を向いたら嫌でも豊満な胸が視界に入るし、下を向けばムチッとした太腿、だからって真逆を向けば不自然すぎるし。 「望月さん…?」 「姫花ちゃん、ちょっと近いかな…。」 「あっ…、ごめんなさい…っ!」 やんわりと断ると、姫花ちゃんは顔を真っ赤にして俺から距離を取った。 そうだよな…、夜職だって大変だよな。 人気を維持するために、嫌な客にも媚び売ったりしなきゃいけないんだろうか。 「すみません、そろそろ帰りますね。」 「え…、もう?なにか失礼なことしちゃいましたか?」 「俺、恋人がいるんです。今日は付き合いで連れてこられただけで、こういうお店には来るつもりもなくて…。」 「そうなんですね…。」 「せっかく良くしてもらったのにすみません。ありがとうございました。頑張ってくださいね。」 席を立ち、ベロベロに酔ってる部長と次長にお礼を言って店を後にする。 よかった、絡まれなくて。 酔っ払ってキャバ嬢に絡んでたけど。 奥さんにバレねぇのかな? 俺もバレないかな……。 自分の匂いをクンクン嗅いでみるけど、鼻がバグって正直分からない。 「20時か…。」 城崎と言ってた時間より1時間も早いから、急いで帰れば隠し通せるかもしれない。 早足で駅に向かっていると、見慣れた顔が、如何(いかが)わしい店から出てくるのが目に入った。

ともだちにシェアしよう!