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第593話
「お隣失礼します。」
俺の隣に座ったのは、あまりキャバ嬢っぽくない黒髪に大人しそうな顔の女の子。
胸はどうしても目がいくくらいデカい。
「あの…、私接客初めてで…。よろしくお願いします。」
「俺もこういうとこ初めてなんです。あまり得意じゃないので、普通にお喋りしませんか?」
「そうなんですか?よかったぁ…。」
俺の隣についた子は姫花 ちゃんと言うらしい。
話を聞いていると、最近夜職を始めたらしく、今日やっと接客デビューにだったそうだ。
「望月さんは格好良くて、優しくて、若いのにお仕事もできてすごいんですね♡」
「いや…、そんなことないですよ。」
「私今日接客デビューするの、すっごく緊張してたんです。初めてのお客様が望月さんでよかった♡」
近い…。
これ匂いつかねぇかな…?
城崎より早く帰って、さっさと風呂入りたい。
女の子特有の甘い匂い。
城崎が気づかないはずがない。
「望月さんはお酒は飲まないんですかぁ?」
「得意じゃなくて…。すみません。」
本当は好きだけど。
部長が俺の席にもお酒入れてるから、必然的に姫花ちゃんが飲んでいる。
「ちょっと暑くなってきちゃった…♡」
「…っ!?」
姫花ちゃんは顔を手で仰ぎながら、俺にもたれかかってきた。
胸当たってるって…。
腕に当たる柔らかい感触。
左を向いたら嫌でも豊満な胸が視界に入るし、下を向けばムチッとした太腿、だからって真逆を向けば不自然すぎるし。
「望月さん…?」
「姫花ちゃん、ちょっと近いかな…。」
「あっ…、ごめんなさい…っ!」
やんわりと断ると、姫花ちゃんは顔を真っ赤にして俺から距離を取った。
そうだよな…、夜職だって大変だよな。
人気を維持するために、嫌な客にも媚び売ったりしなきゃいけないんだろうか。
「すみません、そろそろ帰りますね。」
「え…、もう?なにか失礼なことしちゃいましたか?」
「俺、恋人がいるんです。今日は付き合いで連れてこられただけで、こういうお店には来るつもりもなくて…。」
「そうなんですね…。」
「せっかく良くしてもらったのにすみません。ありがとうございました。頑張ってくださいね。」
席を立ち、ベロベロに酔ってる部長と次長にお礼を言って店を後にする。
よかった、絡まれなくて。
酔っ払ってキャバ嬢に絡んでたけど。
奥さんにバレねぇのかな?
俺もバレないかな……。
自分の匂いをクンクン嗅いでみるけど、鼻がバグって正直分からない。
「20時か…。」
城崎と言ってた時間より1時間も早いから、急いで帰れば隠し通せるかもしれない。
早足で駅に向かっていると、見慣れた顔が、如何 わしい店から出てくるのが目に入った。
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