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第602話

「先輩」 「………」 「せーんぱいっ」 「………」 「先輩ってば!」 翌日、朝から無視を決め込んでいた。 昨日はするつもりじゃなかったのに。 俺が流されやすいの知ってて、半ば強制的に始まったようなセックス。 何度もイッて、俺は週明け早々身体が怠い。 城崎は人のこと言えないくらいしつこく、朝から俺に声をかけてくる。 「ごめんなさい。反省してるから無視しないで…。」 「………本当に?」 「…!してる!反省してる!!」 仕方なく返事してやると、やっと飼い主に構ってもらえた子犬のように元気になった。 尻尾ふりふり、目キラッキラの可愛いやつ。 本当憎めない。 「やっと先輩が口きいてくれた〜…。死ぬかと思った…。」 「大袈裟だな。」 「全然大袈裟じゃないです。先輩と口聞けないとか死活問題すぎます。」 城崎は真顔でそんなことを言う。 どこまでが冗談で、どこまでが本気なのかよく分からない。 城崎の様子を見るに、俺のことについては大抵本気なんだろうけど。 「そういえば、今日は蛙石は?」 「朝から研修らしいですよ。ほんっっとに良かった。」 「可哀想だろ。」 「俺も可哀想でしょ。あんなに追いかけ回されて。」 昨日ずっと城崎を追いかけ回していたマジメくんの顔が見えなくてそう言うと、名前を聞いただけで城崎はげんなりとしていた。 相当ストレスなんだろうな。 マジでどうにかしてやらないと城崎が可哀想かも…。 「なぁ、城崎。新人のことなんだけど…」 「主任〜、外線からお電話です!」 「望月〜、こっちもお前宛に電話。」 「え、今行きます!」 城崎に声かけようとした瞬間、あっちこっちから呼ばれて、中途半端に声をかけたまま俺は城崎から離れた。 あまりしつこいようなら部長に相談したりしろよって、ただそれを言おうとしただけなんだけど。 「あーあ。帰ってきた。」 「城崎くん、ドンマイだね。」 「また始まるぞ…。」 昼休憩に入る少し前に蛙石くんが研修から帰ってきた。 城崎は昨日同様追いかけ回されていて、周りはみんな苦笑して二人を見つめていた。 飯、今日も一緒に食えなさそうだな…。 俺は自分のデスクで弁当を広げた。

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