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第604話
「城崎さん!!おはようございます!!城崎さんは今日の飲み会来られますか?!」
部署に入って第一声。
蛙石くんが城崎にキラキラした目で質問した。
城崎は歪む口元を隠しながら、嫌そうに頷いた。
「嬉しいです!ご迷惑でなければ、是非僕の隣に座って欲しいです!」
「…………」
「今日こそ城崎さんの営業テク教えてくださいね!」
何故こんなにも折れないのだろうか。
そんなに営業成績上げたいなら、いろんな先輩から教えを乞えばいいのに。
営業のやり方なんて個人差があるし、城崎のやり方が必ずしも蛙石くんに合うわけではないのにな…。
「先輩…、俺もう無理かも…。」
「え?」
「今日の歓迎会サボっていいですか…?」
「えぇ…?でも……」
歓迎会は予定がない限り、暗黙の了解で参加だ。
それに、今回は割と早めに言われてたから、多分全員参加すると思う。
欠席して城崎が上から目をつけられるのは俺も嫌だ。
「城崎くん、不参加ですか?じゃあ私が主任のお隣頂きますね。」
「わっ?!蛇目?」
城崎を連れていくための方法を考えていると、後ろから蛇目が現れた。
俺の肩を抱き寄せ、城崎を見る。
「は?…やっぱり参加します。先輩の隣は俺です。」
「ふふ。そうでなくちゃ。」
「その手、離してください。先輩に触っていいのは俺だけです。」
「あぁ、ごめんなさい。」
蛇目が俺の肩から手を離したのを確認してから、城崎は仕事をするためデスクに着いた。
さっきの、敢えて城崎を挑発するような言い方…。
「蛇目、ありがとな。」
「何がです?」
「城崎のこと煽ったろ?参加しないと、部長こういうの厳しいからさ…。」
「私は城崎くん不参加の方が都合良かったですけどね。主任にアタックできますし。」
蛇目なりの優しさなんだろうか。
相変わらずニコニコしていて、表情は読めないけど。
「相談してもいいか?」
「ええ、もちろん。私でお役に立てるなら。」
「城崎がさ、蛙石くんに毎日追いかけ回されてて困ってるんだよ。俺からも彼に注意しようと思うんだけど、蛇目からも何かアプローチかけれないかな?無理にとは言わないけど…。」
「そんなことですか。いいですよ。私、彼みたいなタイプを手懐けるのは得意でして。それに、主任からの好感度が上がるなら願ったり叶ったりです。」
「本当か?!」
思わず蛇目の手を握ると、蛇目はびっくりしたように握られた手を見つめた。
「わ、悪い…!」
「残念。もっと繋いでいたかったのに。」
「つい…。今の城崎には内緒な…?」
「ふふ、分かりました。」
自分から手を握ったなんて知られたら、何されるか分かったものじゃない。
今は蛇目の胡散臭い笑顔を信じるしかないな…。
「よろしく。」
「はい。」
強力(?)な相手を味方に付けて、少し心が軽くなった。
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