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第609話

城崎が満足げな顔をして、俺の頭を撫でる。 ヤバい…。 マジで帰りたいんだけど……。 さっきまで全然普通だったのに、ずっと城崎に触れてたら、どうしようもなく甘えたくて、もっと触れたくて堪らなくなってきた。 もうこれ以上は俺が耐えられない…かも…。 「城崎……、帰ろ……?」 「……!!」 「俺の体調不良ってことにしていいから…」 城崎の服の裾を掴んで、上目遣いに懇願する。 主役の二人が席を外してるけど、後日謝ろう。 「すみません。先輩が体調悪そうなので、そろそろお暇します。」 「あら、望月くんが?本当ね、顔が真っ赤。」 「いつの間に飲んだんすか、望月さん。」 酔って赤くなったわけではないけど、そういうことにしておく。 涼真が苦笑しながら俺のそばにきた。 「おいおい。主任が先に帰んのかよ?」 「悪い…。」 「いや、いいんだけど。バレるのマジで時間の問題だぞ。外では城崎と距離とったほうがいいんじゃね?」 「………」 涼真の言うことはごもっともだ。 でも城崎と距離取るのは嫌かも…。 しょんぼりしていると、城崎が涼真にガンを飛ばす。 「距離取るわけないでしょ。少しでも一緒にいたいのに。」 「周りにバレて距離取らざるを得なくなった方が嫌だろ。」 「バレて離されるくらいなら、俺が職場変えるんで。先輩のことは俺が守るから、心配無用です。」 「俺はおまえの"自分はどうなってもいい"みたいなスタンス、好きじゃないけど。綾人だって、よくは思ってないだろ。」 「俺たちのことに口出ししないでもらえますか?」 なんか険悪な雰囲気…。 でも涼真には、勘違いしてほしくないから伝えておく。 「涼真、俺も城崎とそういう理由で距離置くつもりはないよ。」 「綾人まで…。」 「城崎が俺を思ってくれてるみたいに、俺も城崎のこと大切で、離れたくないんだ。城崎がいいなら、もしものときは二人で職場も住む場所も変えればいいと思ってるし。」 「……」 「心配してくれてありがとな。」 涼真は少し寂しそうな顔をしながらも、納得した様子だった。 少ししんみりした空気になってしまったけど、体は正直で、城崎に触れたい気持ちは変わらない。 城崎の肩を借りて宴会場を後にした。 「先輩、家まで我慢できますか?」 「………無理かも。」 「ん…。実は俺も。」 人のいない路地裏に入って、唇を重ねる。 あー…、好き。 気持ちいい……。 「ホテル行きませんか?」 「行く…。」 「どこのホテルにします?」 「…………声出ちゃぅ…かも……」 「わかりました。」 恥ずかしくて声が小さくなる。 でも城崎はちゃんと聞き取ってくれて、その言葉の意味も理解してくれて、すぐ近くのラブホに俺を(いざな)った。

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